…見つけてしまった。
それは男の人にとってのバイブル


今、私はあるものに釘付けだ。

"あっ!あ、ぁ!"

『……』

艶かしい声が画面のスピーカーから漏れ、画面には男と女が絡み合う生々しいシーン

『うっわ、ちょー…えろい…』

顔を真っ赤にしながらも私は画面に釘付け。
事の発端は10分前。
長期任務を終えて久し振りに大好きな人と過ごせる、そう思って部屋に来た。
帰って来たばかりのあいつは「寛いでいろ」、と一言言って風呂場へ。
久し振りの部屋に、あいつの匂いに浸りながら部屋をうろうろ。
そして、途中で止まったままの数字を表示したDVDプレイヤー。
そのボタンをぽちりと押した。

…そして今に至る。

"やぁあッ、あっん"
"奥さん駄目だなぁ、旦那さんが見てますよ"

どうやら人妻モノで、旦那さんの前で犯される人妻のAVらしい。
しかしこのAV女優は何ともすごい色香なんだろう、そう思いながらも私は「いいな胸でかくて」とか呟いて。

『ザルディン…こーいうの好みなんだ…てかシチュエーションが好みなのかな…?』
「言っておくが俺の好みではないしそれはシグバールが持って来たんだが」

背後から伸びて来た大きな手。
そして力強く抱きしめられると同時にふわりと香る石鹸の香り。

『ん、いーにおい…』
「聞いてるか?」
『んー…シグバールさんのえっちなDVDでしょ?『肉欲の虜』。て言うか何でザルディンの部屋にあるの』
「一昨日シグバールとゼムナスと飲んだ時にあいつが持って来たんだ。」
『え、ゼムナス様もこーいうの好きなの』
「あいつは酔い潰れ…って聞いてるか?」
『じゃーザルディンは私がいない間この奥さん相手にヌイたんでしょ、ばか』
「否定してほしいか?」

くつくつと低い笑ったザルディンの手が髪の毛を書き上げて唇が首に降る
思わず擽ったくて身をよじる

「ん…?どうなんだ」
『いじわる』
「お前が長期任務に出るからだ。悪いのはナマエ、お前だ」
『私悪くないわよ。文句ならゼムナス様に言ってよ』

束ねられた長い髪を一つ掬い上げて匂いを嗅ぐように口付ける
同時にザルディンも同じように私の髪の毛に口付けた

「風呂入ってきたのか」
『ん。』
「シャンプー変えたのか」
『さぁ…?』
「…何処の男の借りた?」
『さぁー?』

太腿から腰、そして腕を撫でられながらも私は小さく笑う

「いい度胸だ。浮気したのか?」
『さぁ?否定してほしい…?』
「あぁ」
『素っ直〜!』
「俺にはお前がいるからな…こんなモノ見て勃つわけないだろ」

飄々と言ってのけるザルディンの手をつまむと小さな悲鳴。

『じゃあ、私とお付き合いする前は何でヌイてたわけ?』
「一晩限りの女だな。お前を手に入れて全部手を切った。」
『うそつき』

ぐい、と髪の毛を強く引っ張ると顔が近付く。横を向いて口を塞ぐと逆に頭を押さえられて深く口付けられた

『んっ…ふ』
「…ん…」

決して小さいとは言えない画面の音量
なのに耳に入るのは目の前の男の吐息だけ。

「ナマエ…」
『ふふ、…かんじた?』
「あぁ…」

慣れた手つきで衣服に忍び込む手を掴む。その腕から逃げるように立ち上がってザルディンから離れた

「ナマエ…?」
『ん?』
「誘っておいて、おあずけか?」
『うん、だって』

手を伸ばし掴み上げた"ソレ"にザルディンは目を見開いた

『こんなの隠してるし』

それは今流れる映像とはまた別の女の子が写ったDVDケース。

「それもシグバールの」
『実はさっきシグバールさんが来て、"コレ、ザルちゃんに返しといて"って言ってたんだけどー?』

語尾の声が自然と低くなる。目の前の男はただ黙って私を見ている

『ザールディン?』
「…ナマエには叶わんな」
『認めた!ひどい…浮気者。』
「別にいいだろう。それはお前に似てるんだし」
『……へ?』

ひょい、と取り上げられたDVD。
そしてソファに腰掛けたザルディンがそのパッケージを女の子を指差し、私は見つめる

「似てるだろう?お前に」
『似てない』
「何処が」
『その子…おっぱい大きいもん…』

そう呟くと手が触れ、指と指が絡まる

「小さくても構わん。」
『なーにィ?』
「育てがいがあるだろう」
『うわ変態!』
「変態でいい」
『開き直ったし!』

ザルディンの舌が指の間の窪みを突いたり滑ったりするもんだから何だかむず痒くて体が震えた

『再現してんの…?』
「さぁ…否定してほしいか?」
『それ2回目だけど?』
「ククッ…ならば、もしDVDの続きなら…この後どうなると思う?」
『誘われてザルディンと朝までセックスすんの』
「当たりだ」

腕を引かれ、目の前に立たされると私はにやりと笑った

『でもね』

怪奇そうな顔をしたザルディンの中心に足を置くとザルディンの顔が強張る

『朝まで私が調教し直してあげるの』
「…ほ、う……?」

ザルディンから奪ったDVDを取り出し、思い切り真ん中からへし折る。
一瞬目を見開いたザルディンだったけど足を置いた中心を軽く踏み付ける。

『画面に写ってるおっぱいデカイ女より私がいい、私しか見れないってぐらいに調教してあげんの』
「…ナマエしか見れないが?」
『今DVD折った時泣きそうな顔したクセに』
「悪かった…ナマエに溺れるから許してくれ」
『頭ん中にある女の子全部消してくれたら許してあげるわ、Honey』

そう呟いて私は、ねだるように見つめる目の前の男にキスを送った。

(画面のなかの女なんか、あなたのなかからオール・デリート!)


END

なんだこれ。何てしまりない終わり方。
情けないV氏ですみません。


08.5.31


イトハン