彼の瞳を見るのは怖い。
だって彼の瞳は全て見透かしていそうで
吸い込まれそうで


私はもっと彼に溺れてしまうから


彼に溺れてはいけない。
だって彼はただの"オトモダチ"

「ナマエ、聞いているのか」
『はいー?』
「…聞いていなかったのか」
『何?』
「……何でもない」

溜息を吐く彼。相変わらず眉間に皺を寄せて。
私はその横顔をボーっと眺めてた

……見とれていた、が正しいのかもしれない。
私は、知らないうちに彼の虜になってしまうのだ。

「何だ?」
『なに?』
「こっちが質問している」
『何が?』
「何か言いたそうな顔をしている」
『そうかな?』

紫色の瞳が、私を捕らえる前に目線を逸らした。

「そういえば、ゼムナスが報告書を出しに来いと言っていたが」
『出したよ?』
「馬鹿だな、気付け」
『何が』
「用がなくてもあいつはお前に会いたいんだろう」

くしゃり、と、頭を撫でられ思わず目をつむる。
彼の手は大きくて、暖かい。

『私は別に。しょっちゅう会ったら飽きるし』
「冷たい恋人だな」

その二文字に、私の胸がぎゅうっと締め付けられる。
そう、私はゼムナスのもの。彼は"オトモダチ"。
――私の事を、そう思ってる。

「あまり虐めるな」
『別に虐めてないし…』
「ほう?」
『それに、ザルディンと居る方が楽しいし』
「それは嬉しいな。だがゼムナスを放っておくと後が大変だぞ、ナマエ」

頭を撫でる手が気持ち良くて、心地良くてはにかんでしまう。

「……ナマエ」
『ん?』
「お前、本当にゼムナスの事好きなのか?」
『んー』
「俺の事は好きか?」
『んー』

声の心地良さに質問を促していて、不意に唇に暖かな感触が軽く触れた

「…俺にしておけばいいのに」
『……何したの、今』
「おっと、すまん、忘れてくれ」
『……』

彼はテーブルに置いてあった分厚い本を盾にしていた。

『…殴るわけないじゃん』
「いや……、つい、な。」

私の頭に置かれた彼の手が離れてゆく。
その動作をずっと見ていた。

「お前が飢えていると思って」
『…馬鹿じゃん』
「くく、ちゃんとゼムナスを甘やかさないように見張っていろよ、ナマエ」

しゅわり、と音を立てて回廊が開く。
彼がそれをくぐるまで私は見つめていた。

「おやすみ、ナマエ」
『…うん、おやすみザルディン。』

霧を残したまま、回廊は消えた。
目が熱い。喉がからからしていて
私は泣いている事に気付いた。

『……っ、ザルディン…』

呼び掛けた名前は届く訳もなく、歯を食いしばって涙を堪えた。
開かれた窓から、優しい風が入り込む。
まるで彼の言った言葉のように、"おいで"、と言われてる様で。

私は……、

頬を伝ってきらきら光る雫が、地面に落ちた。
私の中にある思いは炎のように弾け、小さな煌めきを残した。
裏切りは時に残酷で、時に甘美なもの――。


END

マナミ様キリ番リクエスト。
大変遅くなりました!3氏夢で設定を任す、とリクエストを承りましたが…どう書いていいか…!
指導者とお付き合いしてますが3氏に惹かれてる、という事で書かせていただきました。
結末は、どう受け取ってもいいようにしました。
相変わらず意味不明ですが、気に入っていただければ幸いです。リクエストありがとうございました!マナミ様のみお持ち帰り可能です。



イトハン