傷ついた彼女をみるのはとてもつらかった。


「ナマエ?」

暗がりにぽつんとある影。
名を呼んでやればびくりと震える小さな体。


『あ…ヴィ、ヴィクセン…』
「どうした?」
『あ、あのさ…傷薬…もらえる…か、な…?』


ナマエの発した言葉に胸がぎりりと痛む。
ああ、また、か。


「…またか」
『き、気にしないで。私が…わるっ…悪いから』
「見せてみろ」


ぱちん、と部屋の電気をつけ、ナマエに目をやる。
その白く華奢な体には、痛々しい紫色の跡と、赤い印が残され、首や腕、あちこちには切り傷が姿を現わす。


「お前もはっきり抵抗すればいいものを」
『い、いやー…だって相手がき、傷ついちゃうじゃん?』


ナマエは苦笑いながら、ガーゼで切り傷の血を拭う。


「傷ついてるのはお前だけだ。」
『まっ…まぁー…そうなんだケドね…!』


薬を塗ろうとナマエの手を取る。しかし、ナマエはゆらりと手を離した。


「……ナマエ?どうした?」
『よっ…よご…汚れるから触らない方がい、いいよ…』
「構わん。」


再び手を取り、細かな傷部分もガーゼで拭き取った。


『痛っ……』
「当たり前だ。傷がしみるのは菌が入っているからだ」
『そっか…』
「いつ付けられた?」
『え、えと…昨日…』


ナマエの目を見れば、ナマエは視線を逸らす。
ヴィクセンは小さく溜息を吐いた


「…あいつも…何を考えているんだか…お前は女なのに…こんな傷をつけて」
『はは…』
「一度、ゼムナスにこの事を話さねばならんな…」


ゼムナス、の名前にナマエは体を強ばらせた。


『ほっ…報告しなくていいよ!こんな…私情は…』
「しかし…」
『ヴィクセン、だ、大丈夫だからさ。ね?』


くるくると包帯を巻かれながら、ナマエは慌てふためる。


『ヴィクセンだけだね』
「…何がだ?」
『わ、私…の事…ちゃんと人として見てくれる人』
「は…?」
『あの人も皆も…私の事人じゃなくて道具なような感じで…み、見てるから…ほ、ほら、私!変なカタチでここに入ったから』


ヴィクセンは無言で聞きながらナマエの腕に包帯を巻く。
ナマエは頬笑みながら、ヴィクセンを見つめ続けている。


『あの人が………………にな…』
「ん?」


ナマエの呟きはヴィクセンには聞こえておらず、ナマエはううん、と首を振った。


「首は…巻くのか?」
『首…はいいよ…服で、隠す…から』
「そうか」
『あの…ヴィクセン…』
「?」
『もう一つおね…お願いがあるんだけど…』
「何だ」


答えを要求すると、ナマエは顔を真っ赤にし、俯いてしまった。


「?」
『あっ、あの…さ…ハグ…してもいい…ですか』
「ハグ?」
『だっ、抱き…抱きし……抱き締めてもいい…?』
「な!?」
『わー!うそッ!ごッ、ごごごめんなさっ…じゃあ私ありがとうっ!!もどっ…戻るね』

焦りすぎてうまく言葉になっていないナマエにヴィクセンは目を見開いた。
仕方なさそうに小さく頬笑んでヴィクセンはナマエを引き寄せた


「ナマエ」
『うぉっわわッ!!ヴィっ…ヴィクセン!?』
「……何も、してやれなくてすまん」


ナマエの肩が小さく震えている。


ああ、彼女が
"泣いて"いる。


ヴィクセンは何も言わずにただきつくナマエを抱き締めた。
そうして数分。ナマエがヴィクセンを押した。


「……?」
『あ、ありがとう…ヴィクセン』
「…いや…」
『手当ても…ありがと…じゃあ』

部屋の扉を開き、出ようとしたナマエがこちらを振り返る。


『私の…相手がヴィクセンだったら…よかった。ヴィクセン、見守ってくれてありがとう』

ぱたん、と扉が閉まる。
ヴィクセンは暫らく扉を見つめていたが、ソファに座り込んだ。


「……私も…お前を離したくなかった…」


両手を見つめ、先程の出来事を思い出す。
ノーバディなのに暖かい彼女。ノーバディなのに負の感情がある彼女。
まだ、幼いのに、彼女だって人なのに


「私は…何もできない…」

見守るだけの位置に歯痒く思う。)


ああ、いっそこの手でナマエを連れ去ってしまえたらいいのに


END

めずらしいヴィク夢。


イトハン