それがいけない事とは、彼女は分かっていなかったのだ。彼女は仲間を疑いはしない。
男は皆、獣の皮をかぶっている事を、純粋無垢なナマエは知らない――
彼女は純粋だった。
故にあいつに習った。俺を喜ばせたいが為に。
俺を知りたい為に。
純粋無垢、と言う言葉は恐ろしすぎる。
だから、何が言いたいかって言うと、その純粋で無垢な世界しか知らないナマエの事を俺は何も分かっちゃいなかったんだと思う。

『っ、ん…』
「…」
『シグ…気持ちい…?』
「…んー」

ナマエと恋仲になった。気付けば両想い。
だから付き合った。でも一度もそういうお付き合いがなかったと言うもんだから驚きだ。
キスをするのに3ヶ月。
この俺がよく堪えれたモンだなと自分に拍手を送りたい。
それだけ大事だって思った。

『っは…』
「……」

けれどそんな事はもう、どうでもいい。
一心不乱に俺を求めるナマエは今の俺にとってどうでもいい存在。
純粋で無垢なナマエはもういない。
俺も、ナマエも狂った。

「…ナマエ」
『なに?』
「もういい」
『…気持ちよく、なかった…?』
「別に。ヤる気が失せた。」
『シ、シグ、ごめんっ、ちゃんと気持ちよくするからっ…』

そう言って泣きそうな顔で見上げて来た。
本当、カワイイよなお前は。それも"アイツ"から習ったんだろう?そう言ってやろうか。けれどナマエは慌てて弁解するんだろうな、とぼんやりそう思った。

全部、気持ち悪い。
ナマエが触れるたびに、俺も穢れそうだ。



*****



ナマエは処女だった。だから最初は出来なかった。無理矢理してナマエを傷付けたくなかったし痛くても頑張ったその姿に可愛くて愛しくて出来なかった。
二度目は少し無理にした。ナマエが止めるなと求めたからだ。だから遠慮なく、と言いながらナマエと交わった。
涙を流して笑う姿に愛しさが溢れた。

『シグ』
「あん?」
『あのね、私、頑張ったんだ』
「何をだよ」
『ふふ、秘密!』

そう言っていたのは確か1ヶ月前だったか。
恥ずかしそうに笑いながらナマエは肩に頭を預けてきた。
その仕種が可愛くて顎を持ち上げてキスを送った。
貪るように噛み付くように欲すればナマエも頑張って応えた。
いつもと違ったのはその後だった
コートを脱がせて白い肌に吸い付いているとナマエの手が俺のベルトを外した。

「ナマエ?」
『…私が、する』
「で、出来んのかよ!?」
『頑張る』

少しだけ勃った自身にナマエは舌を這わせた。ゆっくりと舐めるように。
何でこんな事が出来る?教えてもいないのに何でこんなに上手い、そうふと考えた。
だから聞いた。

「こんなの何処で覚えて来たんだ子猫チャン」

頭を撫でてそう言ってやるとナマエは少し荒くなった呼吸をしながら恥ずかしそうに見上げて来た。
次に出た言葉に、一気に熱が冷めたのを覚えている。

『ルクソードから、習ったの』

何を言ったかなんて分からなくて聞き直した。
ナマエは悪びれもなくまた同じ名前を出した。
頭を鈍器で殴られたような感じだった。
目の前がぐにゃりと歪み、ナマエが俺の名前を呼んでた。

『シグ?』
「アイツと、寝たのか」
『教えて貰ったの。どうすればシグが喜ぶか。どうすればシグが私を求めてくれるか』
「……」

そう言って、俺の首筋に吸い付いて、顔中にキスを降らせた。
ナマエが、ルクソードと寝てた?習う?何を、俺に喜んでもらいたくて俺に隠れてルクソードとセックスしてたって?

「……けんな…」
『え?』
「巫山戯んな!!」
『やっ、シグ!なにっ…』
「さぞかし楽しかっただろうなァ俺だけじゃ満足出来なかったってワケか!!」
『シグ、痛いッ!や、め…』

もう、頭に血が上ったってのは分かってた。
嫌がるナマエを慣らさず無理矢理貫いて犯した。
ゴムなんてつけないで中にぶちまけてナマエが意識を飛ばしても犯し続けた。
ナマエは声が掠れて、顔は涙でぐちゃぐちゃで、シーツは無理矢理貫いた所為で出た血と精液と汗だらけ。
気付いた時には妙に頭がスッキリしていた。

「ハァ……ハァ……」
『シ、グ…?』
「……っ」
『ねえ……私、シグを、怒らせたの…?ごめん…ごめんね…』

溢れる涙を拭おうと手を伸ばしたがナマエの顔色を伺う様な様子にどす黒い感情が込み上げた。
俺が好きになった純粋無垢なナマエはもういない。


******


『あ…ルクソード』
「ナマエ。調子はどうだ」
『うん、普通』
「…随分落ち込んでるな。どうした」
『何でもないよ』

こっちを伺うように、ナマエは作りものの笑顔をあいつに向けた。
ルクソードは素知らぬふりをして俺に話し掛けてくる。
ナマエもルクソードも作りものの仮面をつけている。そうして二人で俺を見て笑っていたんだろう
もやもやした感情が脳内を支配する。

「偉く不機嫌だなシグバール」
「…るせぇよ。今は俺の視界に入るな」
「あぁ怖いな。ナマエそんな怖い男やめて俺にすればいいのに」
『ル、ルクソード』

本人は冗談で言ってるのだろう。だけど二人の秘密を知った今の俺にはただ怒りが募るだけだ。
空気が、気持ち悪い。

「いいんじゃね?ナマエ、お前ルクソードのモノになれば?」
『え…』
「ルクソードも。俺のおさがりでよけりゃソイツくれてやるよ。まぁ俺以外に何処かの誰かとヤッてるからガバガバだろーけど」
『…っ』
「…おい、シグバール」

ソファーから立ち上がって部屋を後にしようと扉に向かう。
ああ、疲れた。風呂でも入って外の世界に行こう。
極上に美味い酒喰らって飛び切りイイ女鳴かせて楽しんで疲れて寝よ。
パタン、と閉めきる前に何かに引っ張られる。
面倒臭くてダル気に振り返るとナマエが真っ青な顔で立っていた。

「…ンだよ?」
『ど、どこ…行くの?』
「別にいいだろ」
『わたしも行く』
「俺が他の女とヤってるとこ見たいわけ?」
『え…』
「離せ」
『っ…行かないで…』

捕まれた袖口に震える指先が添えられている。
溜息を吐き、冷めた目つきでナマエを見下すとビクリと身体が震えた

「寂しいワケ?」
『…!う、うん』
「ふ〜ん」
『だからっ…』
「じゃあルクソードに相手してもらえば?」

ナマエの頭を撫でながらにっこりと笑って、言い放つとナマエの瞳から大きな雫が零れた。

『いや…』
「何で?今まで相手してもらったろ。」
『ちがう…ごめんなさい…』
「何が違う?気持ちよかったんだろ?」

顔を上げると、ルクソードと目が合う。表情は崩してはいないが瞳は明らかに怒りが込められている。

『私、私はっシグが好きなの』
「…」
『冷たくされてもいいから…そばに居させて…』

そう言って、目の縁に溜まった涙が落ちナマエが遠慮がちに抱きしめてきた。
俺達を見るルクソードの姿に小さくほくそ笑む。
そのままナマエを抱きしめ、あやすように背中を撫でてやる。

「泣くなって」
『シグ…シグ……』
「はいはい」
「…お邪魔のようだな」

しゅるりと回廊を開いてルクソードは消えた。
俺はじっと、その場を見つめていた。

『シグ…好き、大好き…』

ナマエ。
俺もお前が大好きだよ。だから俺はお前を突き放す。

「あぁ…」

そうすれば、お前は俺から離れられないだろ?俺に縋るお前が俺を裏切らない限り、


俺はお前を大好きでいてやるよ。


END

2の手の上で踊らされてるヒロイン。壊れかけた黒い2。完全当て馬10!


イトハン