午後のティータイム。
今日はどの紅茶を選ぼうか。
私は戸棚に並べられた茶葉の入った瓶を視線で辿る。

(…一応、今日は特別な日、珍しい日だから。うん。)

ちらりと視線をテラスに向ける。
…何ともその茶器や甘いお菓子が似合わない面々がそこに居た。

「…ナマエ、手伝おう」
「すみません気がきかなくて」
『ううん、ありがと!座ってていーよレクセウス、ゼクシオン』

今日は古参メンバーは皆、任務がないと言う珍しい日だった。
私は先日まで長期任務だったので一週間の休みを得た。今日一日はだらりと過ごそうかそれとも街へ繰り出すか、と着替えをしながら考えていた時にシグバールが茶菓子を持って空間から現れた。
もちろん着替えていた私の悲鳴は城に残っていたメンバーにも届いていて、ゼムナス、ザルディン以外の3人が駆け付けた時には私の足元で跪くシグバールの姿。
事情を説明し…今に至る。

「は〜。でも絶好のお茶日和だなァ」
「…お前が言うとここが縁側に思えてきた」
「うるせーよザルディン」
「それにここは指導者が作り出した天気ですし?」
「……ゼクシオン…随分と厭味を含めての言葉が聞こえるが」
「……」

そんな他愛ない話をしている面々に、普段とのギャップの違いを見て思わず笑ってしまった。

『お待たせ』
「お、サンキュ」
「…ありがとう」

濃い紫で描かれた桔梗の絵柄があるティーカップをゼムナスとザルディンの前に、青いバラが描かれたティーカップをシグバールとレクセウスの前に並べ、薄紫と淡い桃色の紫陽花の柄のティーカップをヴィクセン、ゼクシオンの前に置いた。

「可愛いらしい柄ですね」
『ありがと』
「しかし何故、柄がバラバラなんだ?」
『同じティーカップをたくさん揃えるの嫌なんだよね』

ザルディンの質問に淡々と答えるとティーポットに入った紅茶を注いだ。

「ほう…いい香りだな」
「何入れたんだ?花びら?」
『違うよ、こーいうもんなの。お望みなら入れる〜?』
「遠慮シマス」
「余計な事言うからですよ、シグバール」

ゼクシオンは紅茶を啜り、呆れた目でシグバールを見た。彼らがティーカップを持つ姿は何だか絵になる。
一部を除いて。

「…ナマエ、いつまで立っているんだ?まだする事があるのか」
『あ、ごめんザルディン、何でもないよ』
「長期任務、ご苦労だった。」

そう言いながらゼムナスが紅茶を注いだティーカップを私に手渡した。
そもそも指導者にこんな事をさせていいのか、とそう思って頭を下げようとしたががしりと捕まれそれは阻まれた。

「休暇中だろう。堅苦しくするな」
『ハイ…』
「お前が無意識のうちに怖いオーラ放ってるからナマエもビビるんだって。なぁ?ヴィクセン、レクセウス」
「…ノ、ノーコメントだ」
「……」
「ナマエ、シグバールは紅茶も菓子もいらぬようだ」

ひょい、と持ち上げられたシグバールのティーカップ。本人はゼムナスに謝罪の言葉を言い無事ティーカップを取り戻した。

『みんな、せっかくの休みなのに恋人と遊びに行ったりしないの?』

紅茶を啜り、スコーンに手を伸ばしながらみんなを見つめた。
みんなは目をぱちくりさせて顔を見合わせた。

「何だよ、そういうお前は?」
『生憎、私はそういう相手がいないもん。みんなはかっこいいから居そうだけど…』

大きな口を開けてがぶりとスコーンにかぶりつくと、崩れ落ちた粕がテーブルを汚す。
隣にいたレクセウスが素早く手拭きを渡してくれた。

『あ、ありがと。』
「気になる奴とか居ないのか、ナマエ」
『そういうザルディンは?』
「……ゼクシオンはどうなんだ?」
「なぜそこで僕に振るんです」
『ゼクシオンは居るの?』
「え…、あ、その…ぼ…僕は」

顔を赤らめるゼクシオンに、可愛いなぁと思いながら他のメンバーに視線を向ける。

「俺はナマエが好きなんだけどな〜」
『へ』
「多分俺だけじゃなくこいつら全員うひぁ!!」
「余計な事は言うな」
「ヴィクセン寒いからやめろ!凍ってる!」

シグバールの片手が凍って行く様を見て、私は苦笑する。
静かにする事も出来んのか、とザルディンは溜息を吐いた

「…だが、シグバールの言う通り私はナマエを好いている」
『え』
「!?」

突然呟かれた言葉に声の主に目を向ける。
視線の先はゼムナス。彼は整った顔で私を見つめていた。恥ずかしくなってただ下を向いた。

「何さりげなく告ってんだ」
「…シグバール…いつ告白するかは自由だろう」
「そーだけどよ、んじゃーレクセウスも今のうちアタックしとけば?」
「五月蝿い」

やいのやいの言い合う面々に私は気付かず熱い顔をぱたぱたと仰いだ。

『もう…冗談やめて下さい』
「……冗談」
「…だそうだ。」
「……」
『ああ、顔が熱い…』
「残念だったなお前ら」
「何、勝った気で居るんですか」

冷めた目つきでシグバールを見るゼクシオンをザルディンが宥めている。本当に昔は仲がよかったのかと疑いたくなる

「こっ、この際言っておきますが僕は、ナマエの事が本当にす…好きですよ」
『へ?』
「僕チャンより俺がいいよなァ?」
「貴方みたいにあちこちで女性と関係を持つ男よりはマシだと思いますが」

再び散る火花に苦笑いし、紅茶を注ごうとティーポットに手を伸ばす。

「注ごう」
『ありがとう、レクセウス』
「いや…」
『ヴィクセン、これ美味しいよ。ナッツ好きでしょ』
「ああ」
「ヴィクセンはナッツよりナマエが好きなんだよな、なぁヴィクセン?」
「なっ!ザルディン、貴様!ナマエ!お前も勘違いするのではないぞ!」

カップのぶつかる音と紅茶を入れることに意識を注いでいた私はこっちでもぎゃあぎゃあ騒ぎはじめたのに気付かず。入れ終わって顔を上げると騒ぐ面々が面白くて紅茶を啜りながら眺める。

「俺もナマエの様な女なら離さないがな…」
『ザルディンも女たらしってシグバールが言ってたけど本当?』
「まさか」

不敵な笑みを浮かべて。一体その妖艶な笑みでどれだけの女の人達を虜にしたんだか。
かしり、と、2つ目のスコーンに齧りつく。

「少なくとも」

いきなり低い声が横から入り込むものだから気を抜いていた私はびくっと跳ねる。ゼムナスがスコーンにジャムを塗りながら私を見据えた

「我々は、ナマエ、お前の事が好ましいのだ。――冗談などではなく」
『……』
「お分かりー?」
「固まってるな」
「…ストレートに言われた事がないんだろう…」
「そこが可愛いらしいのですよ」

私が覚醒するまでに数分。皆は"自分が一番想っているから"と言い合いをしていた。





イトハン