『あ。』

しまった。忘れた。


「ナマエ…何をしている?」
『ん?ちょっと捜索?』
「何を」
『ちょっとね』
「とりあえずやめてくれんか?他人から見たらセクハラしている女とされている男としか写らん」


そう。私、あるものを求めてルクソードの体をまさぐり中。
私が欲しいモノ――――


『……ない。』
「だから何を探している」
『財布。つーかマニー頂戴。』


ズイ、と手を差し出すとルクソードは目を大きく見開いた。


「………は?」
『だから、マニーちょーだいってば。』
「何故俺がお前にマニーを渡さないとならんのだ?」
『ルクが金持ちだから。』


そう、昨日の夜カジノで荒稼ぎしてるのを知っている。
聞きたくない情報でも勝手に耳に入ってくるのだ。
しかし、いつもは『ふーん』程度で済むのだが今日は違った。


『ね、ルク、お願ぁい』
「気色悪い。」
『ちょっ!失礼だよそれぇ!』
「何が目的だ」
『う…言いたくない。』
「ならばマニーは渡せない。」
『えぇ〜!』


そんなぁ、と愕然とした声をもらし、俯いた。
ちぇー。やっぱ昨日酔っ払ってる時にパチりゃあよかったな…


「ナマエ、声に出てる」
『ほっ!?あら、嫌だ…。しゃーないなぁ…ゼクシオンのとこに行って来る。じゃね!ルク!』


任務中だけど、そんなかったるい任務なんて放棄!
じゃあルク頑張って〜と言いながら回廊を開いた。
しかし、中へ入ると闇の地ではなく、回廊を開く前の地に足をつけていた。


『あれ。』
「何処へ行く気だ」
『ちょっと。何すんのよ。』
「ゼクシオンのところだと?」
『そうよ。悪い?いいから離してよ』


お互いぐいぐい引き合いをしている姿は他人から見ればおかしいだろう


『何よー何で邪魔すんの。私、急いでる。』
「わかったわかった」
『?』
「渡すから、他には行くな。」


そう言うとナマエの目がキラキラと輝く。
ああ、この笑顔に弱いんだ。とルクソードは小さく溜息を吐いた。


『やったぁ!ありがとールク!ダイスキー!』
「自分が狙われてる事に自覚してくれ…」
『ん?』
「何でもない。で。何がほしいんだ?」
『わっ!?』


ナマエを抱き上げ、回廊を開いてくぐる。


『えッ!ル、ルクも行くの!?』
「当たり前だ。保護者が行かんでどうする」
『えぇ〜!いいよ!』


ナマエの否定の言葉を無視して、回廊を潜り抜けた。着いた先はショッピングモール。
抱え上げていたナマエを降ろした。


「で?何がほし…」


ルクソードが振り返るとそこにナマエは居ず。


「…あのお転婆娘……」


どうしたものか、と顎に手をかけながら足を進めた。


『はぁ…はぁっ……危なかった…』


ある店に逃げ込んでいたナマエは呼吸を整えていた。


『やっぱ他の人に借りに行けばよかったよ〜…』
「だからそれはダメだと言っただろう」
『ぎゃッ!?ル、ルクッ…!』
「さぁて可愛い子猫ちゃん、何がほしいんだ?」
『え…えと…っ…その…』


顔を真っ赤にし、ナマエは下を俯いた。


「?」
『その…売り切れてたからもういいの!だから帰ろうっ』


そう言い、ナマエはルクソードの手を引いた。


「………」


城に戻ってきた二人。ナマエはありがとねー!と手を振って自室へと戻って行った。


「………」


ルクソードは暫らく考えて、意を決した様に回廊を開いた。
――――それから数時間後。
ナマエの自室前に立ち、数回ノックする。


「ナマエ、起きてるか」
『…ルク?どしたのーこんな時間に』
「ちょっといいか」
『え?あ、うん。』


ルクソードはナマエの手を引いて、虚空の祭壇へと歩いた。

『なーに?』
「……手、貸せ。」
『ん?』


ルクソードに言われ、手を差し出す。次の瞬間、ナマエは目を見開いた。


『ちょっ…ルク、何で…』


その指には可愛らしいシンボルが輝きを放っていた。


「売り切れだなんて、何で嘘をついたんだ?」
『ゔ……』


ナマエはばつの悪そうな顔をし、目線を逸らした。


「…言わないと仕置きを与えるぞ」
『だ、だって…指輪、なんてさ…ルクと買うの恥ずかしい。だから一人で買いたかったの』
「恥ずかしい?」
『だって…指輪、一緒に買ったらまわりからみたら…こっ、恋人同士じゃん…そう見られたらルク嫌だろうなぁって思って…』


そう口籠もるナマエに目を見開くと同時にナマエが可愛いと、ルクソードは思った。


「バカ者。俺はその方がいいんだがな」
『え!?あ…いやっ…そのー』
「なぁ、一ついいか?」
『な、なに?』
「間違ってたら笑ってくれ。ナマエは俺に惚れているのか?」

傍から聞いたら馬鹿にされそうな質問に、ナマエは一気に顔を真っ赤にした


『あっ、の…なん…違っ、くて…そのっ…』
「ん?」
『あ、う………その……スキ…ですよ?』


顔を真っ赤にして言うその姿に、ルクソードは苦笑う。


「よかったな。」
『へ?』
「…両思いだ」
『…………嘘ッ……へっ?マジ?本当?』


ナマエの間の抜けた顔に、自然に笑みがこぼれた。


「好きでもない奴に、わざわざ指輪など買いに戻らん。」
『あ、ありがと…』
「で?」
『えっ?』
「俺はお前の保護者的存在から昇格していいのかな?」


頬笑みながらそう言うと、ナマエは極上の笑顔を見せた。

『もちろん…どすえ。』
「何だ、どすえ、って。」
『やばー…嘘みたいー…うぅー』
「ありがとう」
『え?お礼を言うのは私だよ!指輪もらっ…』
「俺を選んで」


ちゅっ、と可愛らしい音をたてて唇が押しつけられた。


『っっ……!』
「おや、これくらいは許されるだろう?」
『う……もぉー…』
「さ、部屋に戻ろうか。誰かに見られたら五月蝿いからな」
『ふふ』

そう言って、顔の赤いナマエの手を引いてルクソードは歩みはじめた。


『ねぇ』
「ん?」
『ありがと、財布!』
「…普通そこは俺の名前じゃないか…?」


保護者的存在から恋人へ昇格したが、財布係は変わらないようだ)

END

だってルクは金持ちだもん。
サイクスとルクが財布の紐握ってるもんな。


06.7.26


イトハン