台所で片付けをしていると背後に気配を感じ思わず手元のナイフを向けた。

「あぶねーな」
『シグバール!』
「気ィつけろよ」
『だっ、だって!背後に立つからじゃない…!どうしたの?忘れ物?』

ナイフを戻し、泡のついた手を洗い水分を拭き取った。
シグバールはただニヤニヤと笑ったまま。

『…なに?ニヤニヤして気持ち悪い』
「冷蔵庫。見た?」
『…?』
「見てみろ」

言われるまま開けると小さな箱。
持ち上げるとそう重くはないが見た目からしてケーキか何かだろう

『なに?』
「開けてみ」
『…』

箱を開けると、きらりと光るイチゴの乗ったケーキ。

『これっ!これー!!』
「おー」
『トラヴァースタウンの一日限定5個しかない幻の焼きショートケーキ!』
「おう」
『え、え、』

あまりの嬉しさに箱を持つ手が震える。
落としてしまわないようにシンクの上にゆっくり置いた

「気に入ったか?」
『気に入ったもなにも!朝から並んだの?』
「あーまぁな」
『ありがとう…』

嬉しさから、笑顔が溢れる。そんな私をシグバールはじっと見つめていた。
視線に気付き、首を傾げると頭を撫でられた。

『ん?』
「厄介だなァ」
『何が?』
「ん?ライバルが多くて。」

そう言われ、何の事だろうと思っていたがシグバールの細い指が顎をするりと撫でる。
は、として私は先程の言葉を思い出した。

『あ…』
「ま、お前にはまだ早いかな」
『……』
「けどあいつらには譲る気はないってハナシだ」

頬に軽くキスをされ、思わず身体をすくませる。

『…私』
「ん?」
『私も…みんなの事は好きだよ。でもシグバールと居ると何か…』
「何だよ?」
『何か楽しいの』

言っておいて何だが恥ずかしくて頭を掻く。シグバールは閉じられていない片方の目を見開いていたが、すぐにいつもの顔に戻った。

「そりゃ少しは期待していーのかね?」

嬉しそうな声にいつもの意地の悪い笑顔。からかわれる事を知っているから、私は身体を反転させてシグバールからもらったケーキに視線を落とした。

『ごっ、ご自由に!私ケーキ食べるッ』
「照れんな照れんな」
『照れてないっ』
「ナマエはぁー俺の事が好きなんだよなー?」
『そんな事一言も言ってないもん!』

恥ずかしさを隠すように、皿に取り分けたケーキを食べる。
肩に重みを感じ首だけ振り返るとすぐ近くにシグバールの顔。

「ひとくち食わせて」

そう言って口に運んだ。瞬間ある事に気付き、一気に顔が熱くなる。

『かっ間接キスした!何するの!』
「いいじゃねーか別に。」
『よくない』
「今からもっとするんだからよ」
『は!?』

シンクとシグバールの身体に挟まれ逃げ場がない。
身体をよじるが動く気配のないシグバールを睨む。

「嫌なら拒めばいいだろ」
『シ、シグバール』
「拒まないのは…お前が俺に惚れてるからいい、って事だろ」

近付く顔を避けないのは、シグバールの言う通りで、私はそのまま目を閉じた。


END

いっつも余裕ぶってますが今のうち餌付けしとくのが彼流ですよ。
つまり相手に付け込むのが得意だとゆー事で。
お読み頂きありがとうございました!



イトハン