『あれ』
目についたものはきらりと光る何か。手を伸ばし、それを取ると銀の輪っかだった。
『これ…ザルディンのピアス?』
そういえば外れそうだ、と話していた気がする。
その話に出てきていたピアスだろうか。
扉を開けて廊下を見渡すが既に姿はなく、ザルディンの部屋へと向かった。
『確か…大事なものって言ってたよーな』
早歩きで部屋を目指すと書庫に入って行くザルディンの姿。私は慌てて声をかけたが扉が閉まってしまい声は届かなかった。
『んもうっ、本当に耳悪いんだから!』
扉を開けると同時に槍が目の前に突き付けられる。
驚いて後ろに数歩下がると目の前に居たザルディンも驚きの声をあげた。
「ナマエ!?」
『び…びっくりしたぁ…』
「す、すまん」
『その突き付ける癖直してよ…』
「背後に立たれるのは好まん」
風と共に槍が瞬時に消えた。真っ暗な書庫に居る事に気がついた私たちは電気をつけた。
「どうしたんだ?」
『あ、これ』
持ってきたピアスを手渡すと、ザルディンは自分の耳に触れた。
「いつの間に」
『外れそう、って言ってたじゃない。』
「あぁ…」
『落ちたの気付かなかったんだね』
手の中のピアスを見つめるザルディンの姿に、目をぱちくりさせる。
『それ、もう寿命じゃない?留め具の部分が弱くなってるし』
「確かに…そうだな」
『新しいの買ってつけたら?また落としちゃうよ』
「あぁ…」
ピアスをぎゅうと握りしめるザルディンは淋しそうに笑った。
私はそのピアスがザルディンにとって大事、という事を思い出した。
『そういえば…大事なものなんだよねそれ』
「…あ、あぁ」
『さっき話してたでしょ』
「してたな。」
『もしかして〜彼女からの贈り物とか?』
にやにやと笑いながらザルディンに憎いね〜このこの!と、肘でつんつんとつっつく。
「彼女ではない」
『え、じゃあ貢がせたの』
「…やはり覚えてないか」
『へ……?』
呟かれた言葉に目を丸くし、首を傾げるとピアスを見つめていたザルディンが顔を上げて見つめてきた。
「これはお前からもらったんだ、ナマエ」
『え?あげた覚え…ない…』
「だろうな。お前がここに来る、ずっと前だったから。」
『…私が来る前…』
うーん、と考える。
ザルディンは苦笑いして頭を撫でた。
大きな手が暖かくて私ははにかんだ。
「別に思い出さなくていい」
『?』
「俺にとって…これは大事だ。だから新しいのはいらん。」
『そんなにそのピアス好きなんだね…素材いいやつだし高そうだから当たり前か〜』
「…本当に鈍い奴だ」
『だって、そう…わっ』
身体全体が暖かくなり、気付いた時にはザルディンの腕の中。彼独特の匂いが鼻を掠め、力が抜けそうになる。
自分の鼓動が早くなるのが分かった。
「…お前から貰ったから、と言っただろう」
『……』
「好いた奴から貰ったものは、大事にしておきたい」
『あ、の』
「分かったか」
『うん……ね、ザルディン』
「ん?」
『は、離れて…?恥ずかしいよ…』
きっと私の顔は真っ赤だ。ザルディンが優しく言葉を紡ぐもんだから、何故か照れくさくてそしてこの状態に恥ずかしくて。
ザルディンの逞しい身体を押すがびくともしなかった。それどころか逆にきつく抱きしめられた。
『わ、ぷっ…ザル…』
「今は離せん」
『へっ?』
「顔を見られたくない」
顔を上げると少しだけ赤いザルディンの顔。
私が見上げているのに気付いたのか頭を押さえ込まれた。
『…照れてる?』
「う、五月蝿い」
『ザルディンの心臓の音…早い』
「…五月蝿い……」
『あったかい…』
「…頼むから、もう少しこのままで…居させてくれ」
少し震えたザルディンの声。お互いの鼓動がリズムを奏で、体温が気持ち良くて、全て心地良くてゆっくりと目を閉じる。
『うん…私も同感…』
するりと、ザルディンの背中に手を伸ばした。
お互い小さく笑って、言葉を紡いだ。
END
彼は不器用だと思います。人を弄るのは好きですがアレです。好きな子ほどいじめたいタイプです。
お読み頂きありがとうございました
イトハン