『そういえばヴィクセン、大丈夫だったかな…』
シグバールの開いた空間。そこに突き飛ばされてものすごい音がしていたのを思い出した。
果たして彼は無事なんだろうか。
『消滅しかけてたら困るし…』

部屋を飛び出してヴィクセンの部屋に向かう。
私の部屋からはすぐ近くだ。
ゆっくりと扉を開ける。声をかけるが返事がなく、そろそろとまるで泥棒のように入り込む。

『ヴィクセン…?』


寝室に行くと部屋の主は居た。しかし、ベッドで寝てはいなかった。
その眠り方は他の人が見ても驚くであろう。
ヴィクセンは上半身をベッドに預け、下半身は地面にあった。まるで力尽きた、とでも言う様に。

『あー…不時着』

ヴィクセンの顔を覗き込むとまるで死んだように眠っているもんだから起こせず、私は渾身の力を振り絞ってヴィクセンの身体をベッドへ引っ張りあげた。

『う……お、も…!!痩せてる…くせに、何でっ』

ぐいぐいと引っ張り、先程よりは動いたが起きる気配はなかった。

あと少しだと思い強く引っ張ると案の定バランスを崩した。
何とか頭をぶつけずに済んだがある事に気づく。

『……』

ヴィクセンの腕が私の腰に巻き付いていて、体制的には抱き枕状態である。
冷たい身体は暖かさを求めているようで、ヴィクセンは唸りながら巻き付けた腕に少し力を入れていた。

『ヴィ、ヴィクセン…起きて…』

疲れきった顔が視界に入るが、彼が起きてこの状態を確認したらきっと私は氷漬けにされる。
勝手に部屋に入った揚句、寝室にまで入り込んだ事を咎められてしまう。そう思って暴れるのを諦めた。

『どうしよう…起こしたら氷漬けだし…起こさないと抜けれない』
「すー…」
『ヴィクセン〜…』

ぐっすり眠る彼の横顔はよく見ると穏やかでいて、流れる様に長い髪の毛が綺麗だと思い撫でるように触れた。

『髪…サラサラ…』
「…ん」
『!』

もぞもぞと動くヴィクセンに擽ったくておかしな声が出そうなものだから必死に声を殺す。
息苦しい上に擽ったくて、身体が震える

『っ…ん…!!』
「んん゙……、ん…?」

ゆっくりとヴィクセンの瞼が開きのそりと起き上がり、緑色の瞳が虚ろな目で私を捕らえる。

『…お、はよ?』
「……ナマエ…?」
『う、うん、他に、誰に見えるの』
「何故…」
『ヴィクセン、大丈夫かなって…』
「そうか…私は…眠い」
『え?うん、わかっ…』

再びのそりと動いたかと思えば、今度は覆いかぶさるように重なった身体。
思わず、起き上がろうとするが上からの重心にそれは叶わず再びベッドへ沈む。
首筋に当たる息が擽ったくて、熱い。

『ヴィクセンッ』
「暖かいな…お前は…」
『へ』
「私だって…ナマエを…想っている……だが考えれば考えるほど………ナマエ…は、」
『ちょっと、ヴィクセン!』
「…私は…き…なんだ……本人には…言え、ん…」

だんだん小さくなる言葉。そしてすぐに小さな寝息。
お互いの身体が引っ付いて暖かいが触れ合った所がとても熱くて鼓動が早い。

『ヴィクセーン…?』

彼が、寝ててくれてよかったと思う。
きっと私の顔は、真っ赤だ。彼が起きていたのならきっと怒られたに違いない。
"勘違いするな"って。
でも、私だって

『ヴィクセンが好きなんだからね』

返事はない。当たり前だと思い額に口づけを落とす。

『…起きてる時に、ちゃんと聞かせてよね…ヴィクセン』
「すー」
『ばか…』

悪態を吐きながらも再び額き口づけて目を閉じた。


END

絡みが少なくて申し訳ないです!彼は起きたら自分がやらかした事に驚いて、更にヒロインに問い詰められるといいと勝手に思ってます。
お読み頂きありがとうございました!


イトハン