『あ。そういえば…』

戸棚に仕舞ってあった箱を取り出す。
先程レクセウスに渡すはずだったもの。箱の中からはかちゃかちゃと金属音だけが鳴り響く。

『私って何でこう忘れっぽいかなぁもう』

箱を抱えてレクセウスの部屋へ向かった。
そういえば彼の部屋に行くのは初めてだ、と考える。明日も早いと言っていたから渡すだけ渡してしまおう。
そう思っているうちにレクセウスの部屋の前に着いていた。

『レクセウス〜…?』

控えめにノックをする。もしかしたら寝ているかもしれない、と思い部屋に戻ろうとした。が、背後から声がかかる


「…ナマエ?」
『レクセウス?寝てた?』
「いや、全然…大丈夫だが…何か用か」
『あ、うん。"例のもの"手に入ったから…さっき渡すの忘れちゃってて。入ってもいい?』
「…今は」

返事を待たず、私はドアを開けて入り込む。
元気よくはいどうぞ!と言いながらその箱を渡す。が、目の前の男は風呂上がりだったのか上半身は何も羽織っていなかった。
逞しい身体が目に入り恥ずかしさの所為で手に持っていた箱を落とす

『ごっごめん!』
「いや…」

落とした箱を取ろうと屈む。同じく、拾おうとレクセウスの伸びて来た手が触れ、少女漫画お約束の展開となってしまった

『……』
「……」

手を退けようと引くが掴む手に力がこもり、何だか恥ずかしくて俯いてしまう。
レクセウスは相変わらず無言のままだった。

『レクセウス、あの』
「ナマエ」
『いたいよ』
「…すまない」

ぎゅうと握られていた手が離されて立ち上がる。
箱がからりと音を鳴らした。
レクセウスに手渡すと、その小さな箱を開け、中から出てきた金属にレクセウスの表情が柔らかくなった。

「知恵の輪…」
『うん。この形、見た事ないと思って』
「珍しい形だ…」
『でしょ』

箱をテーブルに置き、レクセウスの手から取りかちゃかちゃとやり始めるが知恵の輪が苦手な私には外れなかった。す、と大きな手が知恵の輪を奪って行く

『うーん』
「難しいだろう」
『知恵の輪は全部難しいよ』
「しかし、よく見つけられたな」
『ふふ、レクセウスの喜ぶ顔見たくて』

普段は何考えているのか分からない表情しているが、何かに興味を持ったり新しい事に挑戦したりしている時のレクセウスは何だか子供みたいで、たまに見せる表情が見たくて私は色々と喜ぶ事をしてきた。

「…それはどういう意味だ?」
『ん?』
「俺が喜ぶ顔が見たい…?」
『うん。珍しいから。』

知恵の輪をいじる手が止まる。
顔を見上げると難しそうな顔がそこにはあった。

『あ、難しい?悩んでる』
「……いや…」
『ね、ね、コツとかないの?』

動かない手を覗き込む。複雑に絡まった知恵の輪が更にがんじがらめになっている様な気がする。

『難しすぎる?』
「…」
『お店の人に一番難しいやつくださいって言ったの、たくさんある中からこれを…レクセウ……ス?』

黙ったままの彼を見上げると意外に近くに顔があり、目を瞬く。
知恵の輪を見たくて近付いたのはいいが、近すぎた。
レクセウスからは風呂上がりの石鹸のいい匂い。まだ乾ききっていない髪の毛がへたっとしていて。

『ご、ごめん…』
「いや…」
『……』

よくよく見ると上半身裸だ。そこまで意識が集中してしまうと一気に恥ずかしくなり身体全体が熱くなった。

「ナマエ」
『はははいっ』
「…何を怯えている」
『えっ、いや…』
「…今更照れているのか」

鼻で笑う気配がし、もう穴があったら入りたい、と上手く思考が回らない頭を奮い立たせた

『照れもするって…』
「何故だ?」
『何故、って』
「やっと俺を意識したから、か?」

意を突かれ、自分はこのまま熱で消えてしまうのではないか、と思うほど身体中が火照っていた。

「ナマエ」
『…なに?』
「こっちを向いてくれ」
『やだよ』
「取って食いはしない」

ちゃり、と耳元で金属音が鳴る。ゆっくり振り向くと渡した知恵の輪とは違う形のものを手渡された

「これからも、ナマエを想っていいだろうか」
『……好きな、ように』
「…そうか。…簡単なやつを教えるからここに寄ってくれんか」
『あ、うん…』

レクセウスってこんなに物事をはきはき言う人だっただろうか。まだ熱く火照る顔を手で押さえ、距離を縮めた。

『て言うかっ、服!着て!』
「…ああ」

押し退けたレクセウスの顔に苦笑した頬笑みと愛おしむ瞳が私に向けられていた事は、私は知らない。

END

黙々とヒロインを思ってる5。知恵の輪ネタしか浮かびません…!
そんでどこか天然。
お読み頂きありがとうございました!


イトハン