傷痕が非道くそそり身体の奥が疼く。そっと触れると、じわりと染みたらしい。
手袋を纏った指先に赤い液体が付着して、まだあどけない顔容が歪む。黒く淀んだ瞳には私が映っていて視線が横にずれた。泣きすぎた所為か瞼は微かに腫れていてその跡をなぞるとまたぽろぽろと涙が溢れ出た。

『ここ、から…出し…て…ゼ、ムナス』

掠れた声が室内に響く。その言葉は確かに私に向けられたものだった。けれど視線は何処か別の場所を向いていた。
それが気に入らなく、髪の毛を鷲掴み無理矢理引っ張った。彼女は小さな悲鳴を上げる。ぶちぶちと髪の毛が抜ける感覚がしたが気にしなかった。


「まだ躾が足りないか、ナマエ」

ぎりりと力を込めると謝罪の言葉がかけられる。
傷痕に指を食い込ませるとナマエは暴れた。腕を拘束している鎖が激しい音を立ててナマエの悲鳴がて響く。
手袋越しの所為で感じたいものも感じられない。片方の手袋を噛んで外すとナマエの瞳が見開く

「…あぁ、何をされるのか分かるのか?」
『イ、…ヤ…許し、て…』
「聞き飽きた」

思い切り傷痕に爪を立てると叫び声が耳を劈く。赤い血が太股を伝って床を汚していった。


「汚すなと、言っただろう」
『あ゙…っぁ』
「困った奴だ…」


細い首に手をやり力を籠める。一部爪のない、か細い手が抵抗を見せる。
首筋にナマエの血がべっとりと付着し、まるで首飾りのようだと思う。開いた片手で再び傷痕に指を突き立て、血を付着させてナマエの唇に指を滑らせた


「綺麗だ、ナマエ」


心がないはずなのに、そう思ってしまって気付けば口にしていた。額に口付けると涙が落ち、その姿に欲情する。
首を締め上げたままナマエの下腹部に手を伸ばして何も纏っていないそこに血で濡れた指を捩込ませた。
びくりと足が引き攣り、じゃらんと鎖が鳴った。


「もっと、見たい」
『ひっ…あ、イヤ、だっ、や、』
「お前の乱れ、狂う姿を」


中を引っ掻くとナマエは甲高い声を上げて身体を震わせた。
軽く掻き乱しただけなのに、直ぐに達するなどやはり躾が足りない。そう思う半面、こんなに淫乱な身体にしたのは自分自身であろうに。可笑しくなって口端が自然と吊り上がる。
ナマエを俯せにし、腰を引き上げる。譫言のように拒絶の言葉を吐き出すことに嫌気が差した。ナマエの姿や声を聞いて既に軽く勃ち上がった己自身を取り出して、禄に慣らさずナマエを貫いた。
血の匂いが一層増し、鼻孔を刺激する。裂けたのだろう、と思いながら腰を進めた。


「機関を裏切るのなら裁かれると分かっているのに何故逃げた」
『いや…嫌だ……や、めて』
「私から逃れて何処へ行こうとした」


泣きじゃくるナマエの髪の毛を掴み上げ、項に噛み付く。強く噛みすぎた所為かついた歯型が血で滲んだ。
逃げようと壁を引っ掻く姿に舌打ちする。
思い切り腰を打ち付けると弱い部分を掠めたのかナマエの体ががくんと力が抜けたのが分かった。


「こんなにも私に従順で、淫乱なお前を、逃がすと思うのか…?」
『ァ…やっ…こ、から…出し、てっぇ…』
「お前、が、居ないと…私は気が狂、いそうに…なってしまう…心などないと言うのに…馬鹿げた話だ…」


喘ぐために開いた口に指を突っ込むと歯が立てられるが気にしなかった。何より、快楽が勝っていて痛みなど気にもならなかった。
苦しそうに喘ぐナマエの耳に唇を寄せた


「お前は、この部屋で一生…私が躾てやる…っ」
『んあっ、う、ふ…!!』
「その身が闇に染まるまで」
『か、は…ッ』


欲を放つと、がり、と音を立てて壁に縋り付いていた手が落ちた。また爪が剥がれたのか、壁に赤い一筋の線が描かれている。
力無くうなだれるナマエの身体を抱きしめてやると血と共に甘い香りがした。良い香り、だと思う。自身を引き抜きもっと、と言わんばかりに身体をきつく抱きしめ首に顔を埋めた。


「ずっとこの部屋で…眠っていてくれ…」


ナマエの血と混じり合った自分が吐き出した欲に触れて掬い上げると糸を引いて滴り落ちる様に口端をあげる。


「私の、愛しいナマエ」


ナマエの香りを纏って、衣服を直して何事も無かったかのように部屋から出る。
閉められた鉄の音が重々しく鳴り響く際にナマエの啜り泣き、名を呼ぶ声が聞こえた気がした。


END



イトハン