彼との出会いは最悪だった。
ちょうど、彼の主の高ぶる気を抑えるため相手をさせられている最中の事だった。
嫌だ、と何度も泣き叫んでいる癖に躯はそうではなく、醜い醜態を曝している時だった。


響き渡る音の中、小さな、控えめのノック音。
不意に彼が突き上げるのを止めたので、涙でぼやけた目を彼に向ける。


「なんだ」


形の良い唇がそう告げる。扉の向こうから、遠慮がちに聞こえる声。どうやら彼の配下のようだ。
不意に引き抜かれた彼の欲望が掠り、そんな些細な事で感じて声を零す自分に嫌気がさした


「…逃げるなよナマエ」
『……』


この日の彼――ザルディンはすごく機嫌が悪くて、気が高ぶっていて。
それだけしか覚えていなかった。
衣服を纏った彼が扉を開ける。
謝罪の言葉をかける、彼の配下の姿が見えた。


「ゼムナス様より、早急に片付けて欲しいとの事で任務書類を、渡されました。」
「……俺を過労死させる気か、奴は…」
「…申し訳ありません」


どうやら指導者から任務を任されたらしく嫌な顔をした彼とそれを申し訳なさそうに顔を歪める彼の配下。


「ドラグーン。」
「は。」
「ナマエを部屋まで送ってくれるか」
「…仰せのままに。」


ドラグーン、と呼ばれた彼の配下はそう告げて会釈した。
その会話を聞き、今日は逃れられたのだと悟ると痛む身体を叱咤して、まだ熱を求める身体を震わせて衣服を纏う。
先に部屋を出て行ったザルディンに「お気をつけて」とお辞儀をする彼の配下に近付いた


『あなたが…ドラグーン?初めて見た。彼、逢わせてくれな』
「…部屋までお送りします。」
『あぁ…余計なこと、喋るなって言われたんだ?』


そのままにっこりと笑い回廊を開く。
彼の配下――ドラグーンは私の手を掴んだ。


「お送りします。」
『いいよ、別に…』
「マスターのご命令なので」


ぐい、と引っ張られて回廊をくぐり抜ける。が、不意に私が屈んだ事でドラグーンは戸惑った。


「ナマエ様、如何なさいましたか」
『…気にしないで。先行って。ついてくから。』


ザルディンに何度も注がれた欲望が足を伝って落ちたなんて言えるか、と思っていたがドラグーンはそれに気付いたようで、私を抱き上げた


「失礼致します。」
『や、何っ…』
「…歩くのが辛そうなので。」


そう呟いて部屋まで連れて来てくれた。
彼の腕の中は落ち着いた。暖かい温もり、心地良い心音。
"これ"が欲しい、と思った瞬間だった。


『…ありがと』
「いえ。」
『ねぇ、お風呂場まで連れてってくれる?』
「…はい。」


脱衣所に降ろされ、衣服を脱ぐとドラグーンは慌てて背を向け、脱衣所の扉に手をかけた。
その姿が初々しくて、背後から手を伸ばして扉を開こうとする手を遮った。


「ッ…!」
『どうしたの?』
「…ナマエ、様…俺は、もう部屋に戻らせて頂きます」
『どうして?』
「マ、マスターから指示された事を…終えたので」


ぴたりとお互いの体を密着させ、その逞しい体に手を滑らせた。彼は戸惑いながら、私の手を掴んだ。


「お止め下さいっ」
『ドラグーン、まだ、お仕事残ってるでしょう?』
「え?」
『私の熱、冷ましてくれる?』
「え?」


意味が分からなかったのか、困ったように上擦る声が一層惹かれた。
ぐい、と手を引いて向かい合い、顔を合わせる。
よく分からなかった彼の瞳の色が綺麗に見えた。


『私の、熱を、冷まして?』


体の間に割り込み、膝で彼自身を押し上げると、ほのかに顔を赤らめ体を引きはがされた。が、何も纏っていない私の姿に慌てふためき、再び私の体を抱きしめたがそれにまた慌てて手を離し目線を逸らした。


「ふっ服をっ…」
『お願い、ドラグーン』
「何をおっしゃるのですか!?貴方はマスターの」
『だって貴方が邪魔したんだよ?あと少しでイけそーだったのに…』
「…っ」
『だから、責任取って?』


あと、少しかしら。
そう思いながら彼の首に腕を絡めた。


「…ナマエさ、ま」
『貴方は、私をやさしく抱いてくれるよね?』
「俺は、貴方を抱けません」
『ドラグーン』
「だから、ナマエ様」
『ナンバー持ちの"お願い"は、絶対、だよね?逆らったら…どうなるんだったっけ…?』


そう言うとドラグーンは目を見開いた。
――勝った。そう思い、ただ頬笑んだ。


『ドラグーン?』
「……」
『"お願い"、聞いてくれるよね?』
「…仰せの、ままに」


*******






「ナマエ様?」
『ん、なぁに?』
「いえ…ぼーっとしていらっしゃったので…眠いのですか?」

衣服を軽く羽織ったドラグーンが近付き、額に口付ける。
擽ったくて、嬉しくてはにかむ。

『ううん…、ただ、少し昔の事、思い出していたの』
「昔?」

コップに注がれた水に口を付け、飲むその姿に見惚れながらも言葉を紡ぐ

『私と君が関係を持った日のこと』
「!!ッぷ!」
『ふふ、大丈夫?』
「ゴホッ…っな…」


涙目な彼が可愛らしくて、身を乗り出して目の縁に舌を這わす。
まだ咳込みながらも優しく、腕を回されあの時と同じ鼓動を感じる。

『可愛い子。』
「ナマエ様…からかわないで下さい」
『貴方は変わらないわね』
「…」
『ただ少し、昔よりは積極的になったかな』
「ナマエ様っ」
『ふふ…、照れないでよ。』
「照れます…」
『どうして?いつも、もっとすごい事、してるのに』
「ナマエ様ッ!」

真っ赤になったドラグーンが可愛くて愛しくて身体を預けた。
あの時と変わらない鼓動が心地良い。


『ドラグーン』
「はい」
『これからも、私を好きでいてくれる?』
「…貴方がそれを望むのであれば」


額に再び口付けられる。
暖かい温もりに私は目を閉じた。


END

初めてを奪ってやったぜ!とか言わないぜ。
竜騎士との初対面。竜騎士はいつもは遠目とかヒロインが3に無茶苦茶されてぐっすみんな時とか見てますが面と向かい合うのがこれが初めて。を書かせていただきました。

091211


イトハン