「…二口君、知ってる?桜って言うのは散っていくからこそ綺麗なんだよ」



今考えて見れば、先輩は自分の事を言っていたのかもしれない。





*





「二口君、今日はいい天気だね」



「めっちゃ雨降ってるじゃないですか」



「私は雨好きだからいいんだよ」




「二口君、ゴリゴリ君新しい味ナポリタンだって。聞いた?」



「うわ、初めて聞いたけど不味そうなことはわかりました」



「だよねー。コンポタみたいに意外と当たりだったりしないかな」



「…なまえ先輩コンポタ食ってたんすか」




「おはよー、今日朝練なかったの?」



「体育館の整備だかなんだかだって言ってましたよ」



「大会終わったからかなー?」



先輩と話したこと、今思い出してみれば内容の薄っぺらいなんて事無い話ばっかりだった。



…それでも、俺はきっと忘れることはないだろう。




『もうすぐ二口君とも会えなくなっちゃうね』



年明けの辺り、先輩がそう言っていたのは、受験とか就職とか卒業ってことじゃなかった。

それに気付いたのは先輩がいなくなってから。



仲の良さそうだった茂庭さんも、鎌先さんも、先生さえなにも教えてくれなかった。



「…はあ」



とうとう俺は先輩を想い続けたまま1年以上過ごし、ついさっき伊達工を卒業してしまった。



「……ふたくちくん」



「…え」



不意に呼ばれた声に振り向くと、そこには面影をほとんど残していない先輩がいた。



「…先輩…なんで、」



「私はもう、先輩じゃないよ。退学しちゃったから…」



転校じゃなかったのか。でも、頭の良かった先輩がなんで、とか聞きたいことは山ほどあるけど…



「なまえさん、どうしてここに」



「…最期に会いたかったの」



「…さい、ご」



「…別に死ぬわけじゃないよ。ただ、婚約してしまったの。明日からはもう外に出てこれないんだって。だからなんとか今日だけは、って無理言って少しだけ時間をもらってきたんだ」



「婚約…?外に、出れない……?」



とんでもない話ではあるけど、先輩の諦めきった顔を見たら嫌でも本当だってことがわかる。



「……二口君、卒業おめでとう。早く私なんて忘れて可愛い女の子でも見つけて幸せになってね」



「そんな…」



淡々と、話すだけ話してそろそろ時間だ。そんなことを言ってなまえ先輩は立ち上がった。



「……それじゃあ」



なんて告げた先輩の腕を引いて引き止める。



「…なまえ先輩、待って」



「ど、したの?」



「俺、ずっとなまえさんが好きでした。いや、今も好きです」



「…ありがとう。私も、私も二口君のこと、好きだったよ。大好きだったよ」



なまえさんは、泣きそうな笑顔をこちらに見せると、そのままやってきた黒い高級車に乗りこんでいった。




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