01


01.あの日から、閉ざした


 物心がつく前から不思議なものが見えた。
 それは、人や動物、物や植物などに囲むように色が輝いているように見えた。
「お母様、なんでおれんじ色に輝いているの? すごいきれい」
「あらま、」
 嬉しそうにお母様は笑った。
「お母様、あの箱、前見たときと変わっているの。変ないろ」
「お母様、あの人の色こわい。真っ黒なの」
 その日の夜にあの人は馬車の事故で亡くなった。
 そんな事が何度も続くと、お母様の色も変化してきた。
 最初は気のせいかと思ったけど、赤く黒く染まっていく色に怖かった。
「ほんとに不気味な子ね」
 怖い目で睨まれながら放たれた言葉がずっしりとのしかかった。
「泣くじゃない。気持ち悪い」
 何かが壊れるような音がした。
 その日からルナリアの周りからひとがいなくなったの。
 ―――ナルリア、5歳の年だった。
 使用人よりも酷い扱いを受けている。
 硬いパンにはカビが生えていて、スープには残りカスの屑野菜。酷い時には丸一日何も食べられない時もある。
 薄い毛布はところと穴が空いていて小さい。
 冬は寒さで凍えそうになる。
 それでも周囲の目を気にして、学生服は綺麗なもんだから私が家で虐げられているなんて夢にも思わないだろう。
「今日中に、これに刺繍をしていてって言ったでしょ。なんで言った事もできないの。馬鹿でノロマなお姉様にお仕事を与えてあげているのに感謝してよね」
 財産難で使用人を雇う人数が少なくて、その殆どが私が補っている。
 反抗して、機嫌を悪させたら待っているのはムチ打ちという名の教育。
 母は「あなたが悪い子だから仕方なくやっているのよ」と、よく零す。
「仕方ないから明日の朝までに仕上げてよね」
「リリスは優しいのね。ノロマなあの子のために時間を与えるなんて。なんて情深いのかしら」
 小さな幸せが舞い込むことで、おまじない的な感じでルナリアの刺す刺繍は、密かに人気があるらしい。
 噂で小耳にした。
 好きな人から綺麗なったと褒められたり、ケンカしたけど直ぐに仲直りできたとか、ほんとに気にならない程の小さな出来事。
 そして、現在―――。
 家でも学園でも極力人と関わらない生活をしている。
 噂はねじ曲がって、私と関わると死ぬと言われる。
 だからか、私と関わろうとする者は居ない。
 興味本位で近づいてくる稀にいる。
 その人達と色に黒が混ざっている。
 これまで出来事からW黒Wは危険や悪意だと判明できる。
 他にも噂はある。
 癇癪持ちで、気に入らない使用人に体罰をしているとか。
 浪費癖があって、家族を困らせているとか。
 妹のリリスを虐めているとか。
 兎に角、悪い噂が絶えない。
 意図的に誰かが、誰かと言わなくてもわかってはいる。
 妹のリリスと両親。
 その事で何度かW保護センターWという職員から教育を受けている。
 最初のうちは声に出して訴えた。
 「私はなにもしていない」「妹に、使用人に手を挙げていない」と、「私の方が家族に使用人に酷いことをされている」と。
 聞く耳を持っていない人物に何を言っても無駄だと悟り、口を閉ざした。






02.ルナリアという少女


 ルナリアは、いつもひとりで本を読んでいるような少女。
 そんなある日―――。
 ひとりの少女が王立学園に入学してきた。
 綺麗な金の髪を靡かせて、大きな瞳は空を思わせるような美しい蒼。
 ぷっるとした唇。
 誰が見ても彼女の美しさは一目見ただけで、心を奪われるものが多数存在した。
 だけど、ルナリアは違った。
 彼女にただならぬ恐怖を感じた。
 これまで感じたことのない恐怖を。
 ドス黒く顔さえも判別できないほどの吐気すら感じる。
 思わず悲鳴を上げそうな声を、咄嗟に押さえた。
 W何か、起きるW
 良くないことが。
 それは現実になりつつある。
 彼女の周りには高貴令息や第二王子といった身分の高い男性陣を侍りかせている。
 不思議なことに、そのほとんどが彼女に恋情を持っている様には見えなかった。
 何かに精神を操られているよな、そんな感じ。
 だけど、この世界に小説に出てくる様な魔法なんて存在しなくて、人を操る事をできない。
 彼女に恋情を持っているなら、ピンク色の花を散らかせているのにと不思議に思う。
 中には彼女に恋をしている者も確かに存在はする。
 それを良く思わないのが彼等の婚約者の令嬢たち。
 彼女らから黒いモヤ。
 消えては現れてを繰り返している。
 同じ黒い色をしていても違いがある。
 私の感情の感じ方。
 私には関係ない。
 関係ないって思ったけど、すれ違い側に見えた黒いモヤ。
 振り向いてルナリアは彼女の背中を見つめる。
 そして、ルナリアは歩き出した。
 女子生徒が入っていた教室を開けると、今まさに教科書を破こうとしている女子生徒がひとり。
 物がなくなったり、教科書が破かれたりしているのは知っていた。
「辞めておいた方が良いと思います」
 私が声をかけると大きく揺れる肩。
 確認するかの様に振り向いた彼女は酷く動揺をしている様子が疑える。
「そんな事しても、貴女の価値を下げるだけで、相手の思う壺です」
「あなただって妹を――‥‥」
 途中で止めた彼女は、ハッとして言葉を飲み込んだ。
「‥‥ごめんなさい」
 だいぶ、追い詰められているだろう。
 相手を傷つけたくなるくらいに。
「第二王子の婚約者ですよね。誰にも気づかれない様に護衛を付けた方がいいかと思います。貴女を含めて、各婚約者も。いじめを止める様にも伝えてください」
「あなたは一体‥‥」
「ただの助言です」
 教室から去ろうとして、歩みを止める。
「貴女の婚約者を含めて、他の婚約者の方々もですが、あの女に恋情はないと断じます。一部を除けばですが。信じる、信じないはどちららでも構いません」
 言い残して、今度こそ歩き出した。
 急いで向かわないと授業に間に合わないかも知れないから。
 関わるつもりは無かった。
 見ないふりをするつもりだった。
 思い出した。
 初めてふたりが一緒にいる姿を。
 とっても綺麗な色をしていたから。
 お互いがお互いを信頼し、尊敬し合っている暖かい色をしている。
 強い絆で結ばれている糸も視える。
 家族内ではよくみられる。
 時間をかけて少しずつ積み上げ繋がっていくのが糸。
 私はそれを絆の糸だと思っている。
 今も、ふたりの間には糸が繋がっている。
 たぶん、だからだと思う。
 口を出してしまった。






03.


「――きん、」
 はじめて目の当たりにする色に思わず声に出してしまった。
 だけど、その声は小さくて届かなかったようで一安心する。
「問題ばっかり起こしよって」
「ルナリア! また何か問題起こしたのね――」
「彼女と話したいだ。少し黙ってくれないかな」
 口調ほど優しいが、その目はどこか冷たさを感じさせる。
「君がナルリア嬢?」
「はい」
「君はどうして、ソフィア嬢に――第二王子の婚約者の彼女にあのような事を言ったんだい?」
 あのような事とはきっと、あの日の出来事のことだろうと直ぐにわかった。
 色がどうのこうのって言ったら後で酷い目に遭うことは確実。ふんん、手遅れ。
 やっぱり関わらなきゃ良かったと後悔するら感じてきた。
 それを指してたかわからないけど。
「城に来てもらえるかな?」
「承知しました」
 そして、今に至る。
 馬車の中、王太子とたぶん側近。私という計3人。
 気まずすぎる。
「ここなら話しやすいかな」
 家の中よりは話しやすいけど。
「そんなに震えないで。取って食ったりはしないから」
 びっくと揺れる肩。
「ルイス、小動物に見えない?」
「エヴァンジェリン殿下、ふざけていないで本題に入ってください」
「そうだね」
 揺れる馬車の中、次期王国の国王と、その側近を目の前にして平常心なんて保ってられるひとがどれだけいるだろうと思う。
 私は家の爵位は子爵。雲の上の存在に等しい。
 一生の一度だって話すこともできない存在のはずなのに。目の前にいる。
「早速だけど―――」
 気を引き締めて顔を上げる。
 なるようになるしかない。
「どうして、ソフィア嬢にあんな事を言ったのかな?」
 なんの罪になるのかな。
 怖いな。
「いろ、‥‥――色が見えるのです。人に関わらず、植物や物にも」
「色。―――ちなみに、私は何色に見える?」
「金と赤です」
「なるほど。それであの時、WきんWって言っていただね」
「き、‥‥聞こえていたのですか?」
「いや、読唇術だよ」
 よかった。
「ちなみルイスは?」
 ルイスとは、隣りの男性のことだとすぐにわかった。さっきもそのように名前を呼んでいたし、呼んでいなくても、私を含めて3人しか居ないのだから自ずと答えは出てくる。
「――紫と青」
 王太子殿下は「なるほど」と頷いてから――。
「護衛をつけた方がいい判断したのも、その色が関係しているのかい?」
 ナルリアははっきりと分かるように頷く。
「はい」
「どんな風に見えるの?」
「――‥‥転校生」
「転校生」
 殿下が私の言葉を繰り返す。
「転校生のアリスさんの色が――‥‥」
 思い出しただけでも怖い。
 あれほどおぞましい黒は見たことが無い。
「ゆっくりで良い。落ち着いて」
 深呼吸を数回繰り返して、気持ちを落ち着かせる。
「顔を判別できないほど、真っ暗なんです」
 全体を覆う黒はW死Wを意味するが、部分的な場合はその患部に病がある。色の濃さによって進行度に違いがある。黒いほど命の危機が高くなる。
 そして、霧の様にモヤモヤとした黒は死や病気ではなく。
 悪意や危険を知らせる色。
「アリスさんの周りにいる男性たちからは、モヤモヤとした黒が見えます。仮に、アリスさんに恋情があるのならピンク色の花が咲いている筈なんです。それが見当たらないです」
 信じてくれるかはわからない。
 わからないけど、見たありのままを話す。
 一番身近な第二王子の人柄を例えてみることした。
 王子様と王子様の婚約者って事もあって、ふたりの事をよく覚えている。
「私から見た色からの判断では、第二王子殿下の人柄は、マイペースなところもあるけど、誰よりも努力家、誠実で頑固な一面もあるかと思います。
ソフィア様は、一見落ち着いててクールで冷たく思われがちですが、思いやりのある愛情深い方だと見受けられます。(なんとなく寂しいがりやな一面もある事は伏せておく)」
 第二王子の色は緑と茶色。
 彼女の色は桃色と灰色。
 そして、今は消えそうになっている黄色――。
「もしかしたら、ソフィア様は、昔は活発で明るいお方だったかも知れません」
 今まで観察を重ねた結果の独断に過ぎないけど、間違ってはいないはず。
 色は年が重なる事で変わる事もある。環境の変化でも。
「信じられないかも知れませんが、アリスさんは危険です」
 彼女は危険。
 これだけは判断できる。
「セレスティア王国――‥‥。世界に纏わる歴史の話をしようか」
 王太子殿下の話は、どれも信じ難い話だった。
 ずっと昔は魔法が使える事が当たり前で、魔法を使って生活をしていた事。
 時代が進むにつれて、その存在も忘れられていた事。
 王家は、学園では習わない歴史も学ぶからその存在を知っている事も。
 災いや悪意から守護する聖魔法。
 また、禁忌とする精神魔法の魅力の話。
「ナルリア嬢は聖魔法の一種と見受けられる」
 表状、虐待の疑いがある事で私は王家の預かりとなった。
「興味本位だけど、ナルリア嬢から見て私はどんなイメージかな?」
「金の方はわかりませんが、もう一つ色から判断すると、決断力と行動力がある方だと思います。周りを引っ張っていく力もおありなのでリーダーシップ的な感じでしょうか」
「ルイスは?」
「――‥‥魅力的なのでただ立っているだけ異性を惹きつける。高い目標を持っていて、努力を惜しまないので達成することも多いかと思います。また、冷静に物事を判断し、平等にみることができる方だと思います」
 聖魔法を扱える存在が現れた事は、国の危機。或いは世界の危機でもあるから、私の存在が表に出るのは危険らしくW虐待Wの疑いが有りで一時的に保護を理由に王家で預かる形をすることで話がついた。
 いくら王家と言っても一方的に家族と引き離す事はできず、あくまでW疑いWの理由で預かる。
 実際は事実でも、認めない場合は裁判になる可能性もある。
 その間に何か起きてはいけない。
 願ったり叶ったりだけど。
 私は、ふたつ返事で頷いた。
 後から聞いた話だけど、保護センターというものの存在を聞かされた。
 DVや虐待といた暴力から身を守る為の施設。
 本来、異変に気付いた大人が連れて行くべき役目なのにおっしゃっていたが、学園の私の姿を見て虐待の疑いをするものはいない。
 なるほど、納得する。
 何度かご指導を受けたのは、その事かと。
 「妹を虐めてはない」とか「侍女に手を挙げてはない」とか、「母や妹に鞭打ちされているのは私」、と訴えても聞いてもらえなかった。
 怪我の具合によるけど、一週間経てばどんな怪我も直ぐ治っていた。
 鞭打ち程度では、一日あれば何事も無かったかの様に綺麗に治っていた。
 それも、あの家族にとっては不気味だったのかも知れない。






04.〈 アリスside 〉


「せっかく幻の乙女ゲームを手に入れたのにやる前に事故に遭ったときは最悪、思ったけど。やっぱりアリスは神様にも愛されているのね。罪な・ア・リ・ス」
 与えられた部屋で高笑いをするアリス・ラーズ。
 この世界も、前世もアリスは誰がも敬うくらいに可愛かった。
 女子の嫉妬、妬み。
 全てアリスが可愛いことがいけないの。
 ごめんないね〜。
 恋人が居ようが関係ないわ。
 少し上目遣いで、胸を当てるように腕を絡ませれば落ちない男なんていないもの。男って馬鹿な生き物ね。
 ああ、思い出しただけでムカつくけど、ひとり居たわね。
 「君と僕は親しい事柄ではないから無闇に抱きつくじゃない」とか「自分をもっと大事にした方がいい」とか「そんな事ばっかり繰り返していると痛い目に遭うよ」なんて言うからムカついたから痴漢を出た上がって逮捕させちゃった。
 帯にハートをつける様に悪びる様子もない。
「あの男が悪いのよ。アリスを怒らせるから」
 こっちでも、アリスの可愛さは全快で直ぐにアリスの魅力に褒めてくれたわ。
 低級な男なんて可愛いアリスには似合わない。
 上級で金もあってイケメンじゃなくちゃ、このアリスには釣り合わないわ。
 よくわらないけど、確かWこうしゃくWが高貴だった気がする。
 アリスだったら、王妃も夢じゃないわね。
 何なって、可愛くて、優しいアリスは、みんなから愛されて謝れるべきでしょう?
「そーだ。クラスは違うけど、同じ学年に第二王子がいたわね。ふふふ」
 迷ったふりして、第二王子を探した。
「このアリスに探させるなんて生意気。あっちから会いに来るべきじゃないの」
 第二王子を探すだけで一週間。
 見つけて前を通り過ぎても声をかけてくれない第二王子・ディーノに苛々しだすアリス・ローザ。
「きっとシャイなのね。可哀想な王子にアリスから声をかけてあげる。感謝してよね」
 このアリスが声をかけてやったというのに、別の男に道案内させるなんて、許せない。
 何度も何度も声をかけてやっているのに靡かない。
 「君に名前を呼ぶ事を許可した覚えはない」とか「婚約者でもない男性に、なんでいうのか触れてはいない」とかうんざり。
 めげずに何度も近づいたら、やっぱり可愛いアリスに落ちたわね。
 こうなるべきなの。
 第二王子なんてアリスにはもったいわ。
 アリスは王妃にかるべき存在だから。







00.〈 ディーノside 〉


 最近、やたらと近づいてくる女の子がいる。
 ギラギラしていてとっても怖いだ。
 どんなに言って聞かせても、言葉が通じているのかわからない。
 ほんとに怖いだ。
 ソフィアに相談したいけど、心配かけたくないし、やっぱりソフィアには弱いぼくを見せたくない。
「最近、執拗に近づいてくる女の子だけど――」
「確か、―――アリス嬢だったか?」
「名前は知らない」
「知らないのかよ」
「ソフィア以外に興味なんて無いよ」
 そんな事を話していたのに。
 だんだんと意識が遠のいていくのを感じたんだ。
 深い深い海の中にいる様で、思っていない事を口にする。
「ソフィアがアリスのこといじめ」
 ――ソフィアがそんな事するわけない。誰よりも優しく、手を差し伸べる女性なんだ。
 頭ではわかっているのに。
「かわいいアリスをいじめなど許せない」
 ――ぼくは、何を言っているだ。
「ソフィアがアリスを階段から突き落としたの。アリス怖い」
 ――何を言っているんだ。嘘も大概にして欲しい。不敬罪だ。
 叫びたいのに。
「ぼくがアリスを守ってあげるよ」
 ぼくは何を言っている。
 ぼくは、自分が怖くなった。
 近づかないで欲しいのに、触れて欲しくないのに身体が思う様に動かない。
 心と身体がぐちゃぐちゃで気持ち悪い。







00.手紙


「ディーノ様からお手紙が届いたのです」
 ソフィアから渡された手紙は、第二王子のディーノからの手紙で間違いなかった。
 ○○判定で本人のものだとハンコ版を押された。
 手紙の内容は―――‥‥。
 『この手紙を読んでいる事は、僕に異変が起きているだね。
 最近、記憶が曖昧の事が多い。
 何をするかわからない。
 僕に近づかないで欲しい。』
 簡潔に綴られた手紙。
 ディーノの本人も、自分自身に何かが起きている事に気づいていた事が見てとられる。
 私に何ができるかわからないけど、試さない手はない。
「試したい事があります」
「試したいこと?」
「ディーノ王子殿下が普段、身につける物やよく触れる物はありませんか? それに刺繍を刺したいです」
 ただの偶然が重なっただけかも知れないけど、試さない手はない。
「私の刺繍には小さな幸せを呼ぶって噂があるです。ただの偶然の可能性もありますが」
「いいけど」
「良いですか!?」
「危害があるの?」
「ないですけど、――‥‥実験に使うような事ですし」
 尾びれがだんだんと小さくなる。
「ハハ、‥‥確かにそうだね。――実験か、実験」
 侍女に頼んで、いくつか見えないところに刺繍を刺す。
 刺繍入りを使用してしばらくすると、徐々に正気を取り戻しいく、全体を覆う黒いモヤも消えて、本来の色を取り戻した。
 記憶は曖昧で、深い海の様な真っ暗なところにいた感じがした。
 同じように他の方々も正気を取り戻すと、皆同じことを言っていた。
「ほんとによかった――」
 事件は解決し、あの家に戻らないといけないと思うとすごく怖いけど。
 騎士に捕虜されたアリスは、意味のわからないことを叫んでいたらしい。「アリスはヒロインなの」「こんな事を間違えている」などなど。
 私はこの話を聞いて考える。
 小説の読み過ぎで、現在と非現実の区別がつかなくなったのかな。
 現王国では、死刑制度は廃止になっているから生涯幽閉生活になること。
 死刑するべき、声が高いが今の法律で刑が執行したこと。ここで認めて仕舞えば、この先も同じことがあった場合に認めないといけなくなるから。
 振り替えてもすごい事件。
 未だに信じられない。
 人の心を弄ぶような人非道な魔法が存在していたことが。
 遊び疲れて寝てしまったアレック王子殿下。
 眠いのか、目を擦りながら顔を上げる。
「ナルリア帰るの? ここに残っちゃダメ?」
 なに、この天使。
 こんなに小さいのに、この魅力。
 やっぱりまだ薄いけど、紫色の特徴が出ている。
 眩しい。
「ぼくのママにならないの?」
 抱きついて、瞳をうるうるせて、見上げる天使ことアレック。
 ふたつ返事で頷きたいけど、こればかりは。
 近くで見ているこの子の父親は楽しそうに見守っている。
 ほんとにこの子の義母になる事になるとは、この時は夢にも思わなかった。






〈 現在、日本―― 〉

 《続いてニュースです》
 《――死亡した、星野アリスさん》
 《――目撃者によると、笑いながら》
 《意味のわからない――叫びながら》
 《飛び出したそうです》
 テレビに耳を傾けながら、ちらりと画面を見るひとりの少女。
「ずっと前に買ったのはいいけど、稀に自殺したりするひとがいるから怖くできなかったけど。アリス(あなた)に奪われて良かった。もしかしたら、わたしも―――‥‥」
 都市伝説のひとつにWイジメWを苦に自殺したひとの呪いではないかと言われている。
 iPhoneを手に持って、ネットを繋げる。
 単語を入力して開く。
 今流れたニュースで盛り上がっている。
 『いい気味よね』
 『世界は自分中心に回っているって思っているタイプだったし』
 『中学の時にいた、あれ』
 『名前なんだっけ?』
 『忘れた』
 『ww』
 『自殺しただよね』
 『自殺するなら学校来るなって感じ』
 『言えている』
 『ほんと迷惑』
 『あのゲームやりたいけど、ウチも死ぬかもww』
 『わたしもww』
 ネットを閉じて、iPhoneを置いた。

 事故死した、とある女子のゲーム機の液晶画面に映された文字。
 魔女と失われた魔法の復刻――‥‥
 転生プレイしますか?
 はい  いいえ


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「これってもしかして、呪われたソフトじゃない?」
「怖くってできていないの」
「茉子は怖がりだからね」
 茉子と呼ばれた少女の手に聖女と失われた魔法の復刻。
「持っているだけで呪われるらしいよ」
「え、え、ほんとに」
「うん」
「早く処分しないと! 呪われちゃう」
「私に任せて。そーいう当てがあるからさ」
「だけど、梨花が呪われちゃう」
「大丈夫。すぐに持っていくから」
「ほんとに頼んでいい?」
「うん」
 笑顔に隠された黒い顔。
 梨花と呼ばれた女子は心の中で微笑む。
 (馬鹿みたい。呪いなんてあるはずないのにおびえちゃって)
 (高額で売れるし、プレイ終わったら売ろう)
 茉子から梨花へ手渡されたゲームソフトのケースには。
 魔女と失われた魔法の復刻――‥‥





※ いくつかの世界のひとつ、別の世界が存在する。
 謂わば、パラレルワールドをイメージしてください。


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