裏切りの対価

「婚約を白紙にして欲しい」
王城の一室で、私の父と義母、王様、それから義妹のキリィとクリストファー王子。
私の義妹であるキリィを愛してしまったから婚約破棄をして欲しいと、頭を下げるふたりに頭痛がする。
財力のあるオルレアン家と繋がりさえ持てれば王家として、私でも義妹でもどちらでもいいに違いない。それなら初めから私に決めないで良かったのでないかしら。
「お姉様に酷いと裏切りをしているの知っています。気持ちを抑えようと思うほど、気持ちを溢れるばっかりで・・・」
「我が国の為に君が必死に努力をしてきたことは知っている身で、このような我儘を言うことは許されないことはわかっている」
努力していたのは知っている?
どの口が言っているのかしら。知っているのなら、そんな仕打ちできるはずもないわ。
八年と云う年月を、厳しい王妃教育を血の滲むように耐えてきた。苦手な魔法も、他国の言葉や文化も、友達と遊んだりお茶会も我慢して、彼の隣に立っても恥ずかしくないように必死にやってきたことが義妹のキリィを愛してしまったからを破棄して欲しいなんて王族なら何をやっても曲がり通るなんて呆れれるわ。
ふたりの関係が怪しいのは知っていた。今だけで、結婚したらそのうちに熱も冷めるだろうと思っていた。
「わかりましたわ。ただし、条件があります」
「条件とは?」
「一つ、今後どんな事があっても婚約破棄、或いは、離縁をしないこと。
一つ、愛人を持たないこと。ま、思い合っているふたりならそんな事はならないと思いますけど。
最後に、私を頼らないでください」
「ああ、誓おう」
「では、魔法契約を結んでくださいませ」
そして、私は魔法契約書に今上げた条件を紙に書く。
魔法契約とは、その名通りに魔法で結ばれた絶対的な契約。破ると死をもって償う事になる。
"死"とは言っているけど、事実的な死とは限らない。美貌だったり、名誉だったりと様々だ。
その契約書にふたりの名前を記入して貰い契約が完了した。
これがふたりの首を絞める事になることも知らずに。
続いて、父に目線を向ける。
「私をオルレアン家が籍を抜けてください」
「何も、そこまで・・・」
「籍を抜いてください」
「抜いてどこにいくつりなんだ」
「ここを離れて旅に出ようかと思っています」
「籍を抜かなくても、旅に出られてるではないか」
「二度と帰るつもりはありませんので。自由に生きたいです。私のわがままは聞いてもらえないですか」
「・・・っ、わかった」
お父様は何か言いたげだったけど、念を推すように託すと渋々といった感じでオルレアン家から私の名前を抜く。
領地の皆様も、王都でも大変お世話になりましたし、隣国に渡る前にお世話になった方々にあいさつをしなくちゃなりませんね。
これは、私の些細な復讐でもある。
オルレアン家が裕福なのは、昔、私が助けた男の子が隣国の第二皇子で、その恩恵に輸入を受けているからが大きな利益に繋がっている話をフェイから聞いたときに思いついた。
フェイ曰く、私を傷つける形でオルレアン家を出ると輸入を止まることになっていることを。
リューナリア帝国につくと、フェイから会って欲しい方がいるってことで、とある場所へ案内されて気づく。
それと同時にフェイが見習い執事ではなく、身分の高い公爵で第二皇子の側近にあたる事も。
「聞いていませんわ」
「言っていませんでしたけ」
「ええ」
通された場所は皇城。
軽いのりで連れこられたけど、心の準備ってものがある。
皇帝様も、皇后様も優しい方で良くしてもらった。
次期皇帝の皇太子様も、第二皇子も、皇女様も歓迎モードで不思議だったけど。
皇太子様とは何度か顔を合わせて話をした事はあるけど、公務の一貫としてだからこうしてプライベートな話をすることは無かった。
失礼は無かったかしらと今になって心臓がバクバクと鳴る。
「緊張しましたわ」
住まいが整うまで皇宮に客間に住まわしてもらえることになって、何からにまでお世話になっている。
申し訳なくなる。
リューナリア帝国での暮らしは本当に充実した毎日を過ごしていた。
私が充実した毎日を過ごす最中て、オルレアン家が大変な事になっていた。
今まで軽価格で貴重な物産を取り引きできていたのが中断になったのが原因の一つ。
更なる打撃を与えたのが、アイリィーが家督から抜け隣国に渡ったことが大きな理由。
リューナリア帝国の第二皇子の命の恩人だったから、その恩恵で軽価格で取り引きをしていたに過ぎなかった。その取り引きが無くなり、当てにしていた資産が急に無くなったのだ。今までみたいに裕福な暮らしは出来なくなるのは必然な流れ。
オルレアン家の財力を当てにしたものあり、それに伴い王家も危うくなているのこと。私には関係ない話だけど。
私はと云うと、第二皇子のリオンと婚約し、一年後に結婚する予定。
今は幸せです。
今の段階で、キリィとクリストファー王子がどうなったかわからないけど、幸せとは程遠いだろう。
王家に愛想を尽かして、国から離れていた国民も多くいるらしく、王家の信頼も落ちている。
オルレアン家はかろうじて貴族として成り立っているが、苦しい状況下にいるらしいことをリオン様から聞いた。
王族も対応も、元家族からの仕打ちも、元婚約者からの仕打ちも心の底から嫌気が差していたから少しだけスッかとしたことは秘密である。
リオン様と婚約発表をして、しばらく経った頃、王家から手紙が届いて一度だけ会うことになった。会う必要は無いとリオン様は言われましたが、決別の意味を込めて対面することにした。
その時にお父様とお義母様も一緒だったけど、私には強い味方もいる。
(お父様、なんだかやつれたわね)
魔法契約を交わしたのは、義妹と元婚約だからこれは契約違反にならない。考えたものね。
「お話とは何でしょうか」
「キリィが困っているの。アイリィーはお姉ちゃんだから妹が困っているなら助かるのが当たり前でしょ」
「何をおっしゃっているのか理解に苦しみます。私には妹なんていませんわ」
「おかしなことを言わないでちょうだい」
「おかしなことではございません。私は、オルレアン家とは縁は切れています。キリィ様と私は赤の他人です」
「いい加減にしてちょうだい」
「――いい加減にするのは、君の方だ」
今まで黙っていたお父様が声をあげた。
声をあげるお父様を見るのは初めて、私も驚く。
「貴方だってわかっているでしょ! ここのままじゃ、オルレアン家は――」
「これ以上、醜態を明かすじゃ無い」
「契約をお忘れてますか。W私を頼らないW」
この契約がある限り、私が義妹や元婚約者に何かをすることは契約違反に当たるだろう。
「契約違反を犯してもいいなら施しをしてもいいですわ」
何も言えなくなる義母ににっこりと微笑む。
「要件が済んだならお帰りくださいませ」
いつまで王家が維持出来るかわかりませんが、お望み通りに義妹は王妃にまれますし、お義母さまは王妃の母になれたでしょ?
あの魔法契約がある限り、白紙にすることも出来ず、キリィを王妃に迎える事しかできないだから。
望みを叶えた私に感謝して欲しいくらい。
私がリオン様と結婚して二年の月日過ぎた頃、シルヴァニア王家が倒壊し、リューナリア帝国と合併することになった。
それに伴いあの婚約白紙に関わった王侯族は平民に落ちた。‥‥いや、落とした。
そのように仕向けたのわたし達だけど。
その直ぐ後、「平民に落ちるなんて聞いていないわ」「尊いまれ、愛されるべき存在なわたしが」よくわからない発言して、いかにも貴族ぽい男を消えたと噂で聞いた。
「まさか、ルイス様が関わっていないですよね?」
「どっちだと思う?」
「質問を質問で返さないで下さいまし」
「契約違反はなんだと思う?」
「もう、話を逸らさないで。‥‥そうですね、あの子が嫌がる美しさではないでしょうか」
「そうだね、きっと」
〈 オルレアン伯爵side 〉
オルレアン伯爵は、こうなる事をおよそ予想をついていた。
妻もキリィも王家もアイリィーの重要性を知っていたはずなのに。
殿下と婚姻を結ぶ際に全て話をした。
今のオルレアン家があるのは、アイリィーがあっての事だから大切にして欲しい事も、傷つけるような事もしないで欲しい事も。
それなのに――。
覚えていないのか。
アイリィーの婚約者と必要以上に親しくしてはいけないと。母である夫人にもリキィに注意をするように何度も言った。
アイリィーがいるから今の裕福な生活が出来る事を。
アイリィーを傷つける事があれは、隣国との取り引きが無くなる可能性がある事を。
親愛はあっても、殿下に対して恋情はないかも知れない。
だが、今まで尽くしてきた事を知っている身として、この婚約が破断になる事は裏切りに等しい。
もし万が一が当てはならない。
厭、大丈夫。殿下も娘も馬鹿ではない。
王侯族の義務を間違える訳がない。
それなのにことが起きてしまった。
「キリィを愛してしまった」
陛下は、殿下に甘い。
一人息子でなかなか子宝に恵まれなかったのが原因だろうか。
「陛下には話をなさったのでしょうか?」
「いや、まだだ。まず、アイリィーの父である貴方に話すべきかと」
妹を愛する男にアイリィーを任せても幸せだろうか。
結婚したとしても、裏切り続けるに違いない。
「私から仰る事はございません。国王陛下と話し合ってください」
この後、起こるであろう危機に目を閉じた。
それがあの会議。
脅しとも取れる一方的な婚約白紙。
「婚約を白紙にして欲しい」
王城の一室で、私の父と義母、王様、それからキリィとクリストファー王子。
「お姉様に酷いと裏切りをしているの知っています。気持ちを抑えようと思うほど、気持ちを溢れるばっかりで・・・」
「我が国の為に君が必死に努力をしてきたことは知っている身で、このような我儘を言うことは許されないことはわかっている」
「わかりましたわ。ただし、条件があります」
「条件とは?」
「一つ、今後どんな事があっても婚約破棄、或いは、離縁をしないこと。
一つ、愛人を持たないこと。ま、思い合っているふたりならそんな事はならないと思いますけど。
最後に、私を頼らないでください」
「ああ、誓おう」
「では、魔法契約を結んでくださいませ」
娘は気づいていたのだ。
こうなる事を。
W魔法契約W
これがふたりの首を絞める事になることも知らずに。
続いて、娘は私に目線を向けた。
「私をオルレアン家が籍を抜けてください」
此処で直ぐに頷く事は、間が悪い。
引き止める事そぶりくらいはしないと。
「何も、そこまで・・・」
「籍を抜いてください」
「抜いてどこにいくつりなんだ」
「ここを離れて旅に出ようかと思っています」
「籍を抜かなくても、旅に出られてるではないか」
「二度と帰るつもりはありませんので。自由に生きたいです。私のわがままは聞いてもらえないですか」
「・・・っ、わかった」
娘には恨まれるだろうが、止めることが出来なかった責任は私にもある。
これでいい。
〈 フェイside 〉
「必要以上に姉の婚約者である殿下に親しくなるべきではない」
「義兄になるだからいいじゃない」
「間違いがあってはならないのだ」
「考えすぎですよ。お父様」
何度も耳にする言葉。
アイリィー様の義妹であるリキィ嬢は聞く耳を持ち合わせていないようだが。
「ベラからもリキィに注意をしてくれないか。父である私より、母である君の方が素直に聞いてくれるじゃないか」
「そんな心配しなくても大丈夫よ。私の娘だもの」
何を根拠に言っているのか。
この言葉もよく聞く。
あの母親も娘も王妃になるのは、アイリィーよりもキリィ嬢が向いているって思っている節がある。
欲まみれの腹黒のどこが良いのか。
腹黒女は上手く猫を被っているようだが。
「殿下、娘と距離が近いではありませんか」
「家族になるだからこのくらい普通ではないか」
「お父様たら、いつも、私とクリストファー様が仲を疑っているです」
「そうじゃない。距離を考えてくれって助言しているだ」
あの父親は何度も彼らに忠告をしていた。
耳にタコができるほどに。
「やはりこうなったか」
婚約が白紙になった。彼女、アイリィー様から聞いた。
予定通りにアイリィー様を連れて隣国、俺の母国へ向かった。