猫になる

 ん、なんか寒い。
 手を伸ばして布団を探してみるが、それらしいものがない。それどころか違和感。
 飛び起きてみると外。それもゴミが溢れている。

「にゃあ?!!」

 目の前の光景に思わず飛び跳ね。

「にゃにゃにゃあにゃあ」

 そこでもう一つ異変に気づく。先程から猫の鳴き声が聞こえる。それと地面が異常に近すぎる。まるで縮んだような、そんな感じ。

「に、にゃあにゃにゃああ!!?!」

 何故か猫になっていた。
 これは夢だ。夢に違いない。
 よし、寝よう。寝て起きたらこの悪夢から醒めるに違いない。私のささやかな願いは叶うこともなかった。
 寝て起きても、私の身体は猫のまま。それどころ最悪な事態になっている。
 私の首根っこを掴まられている。全身真っ黒の男に。

「にゃあ!!」

 私は精一杯抵抗するが空振りで終わる。そもそも小さな手足で抵抗しても人間に適うはずもない。それにだ。
 この男から血の匂いがする。危ないやつだと警告音が鳴り響いている。早く逃げろと。

「ハ、お前抵抗しているつもりか」
「にゃぁ」

 早く離してくれ。私の願いが通じたのか男が手を離し、私は重力に従って下にまっささか。

「にゃぁあぁ」

 思い切り地面に顔をぶつけた。
 猫なのになんて運動音痴。人間だったころと変わらないのね、そこは。
 痛い鼻を小さな猫の手で押さえる。
 もう、いや。私、このまま猫として人生歩まなくちゃならないの。それだけは、イヤ。


 ーーーぐるるるる……


「にゃ!」

 今、いま鳴る?!
 こんな状況でもお腹の虫は正直で。私は、私のお腹に呆れた。

「お前、腹空いているのか」
「にゃ」

 だって、断食していて3日程食べてなかっただもん。水だけしか飲んでいなかった。
 今日の朝から少しづつ元の食事に戻すつもりだったから、今日まで水ばっかりの生活をしていたわけで、お腹が空いていないっていえば嘘になる。
 何かくれるのかなって期待した私がバカだった。

「あいにく持てないね」
「っにゃあ」

 どうしよう。食べものことを思い出すと余計にお腹が空いて、ぐるるるとまた鳴った。
 仕方なく食べれそうなものを探しに歩くことにした。
 あー、それにしても此処どころだろう。
 日本にこんなところがあったなんて猫になるまでは知らなかった。
 どのくらい歩いたのかな。すごく疲れた。
 歩きなれない猫の姿で歩きにくい上に、いつも以上に疲れがくる。それに至るところにゴミや死体が転がっていて、日本ではない気がしてきた。
 トボトボと歩いていると、身体が宙に浮く。

「にゃあ」
「うるさい」

 その声の持ち主は、先程、出会った男。

「ワタシがここまでやたね。のたれ死んだら殺すよ」
「にゃ?!」

 物騒な言葉が聞こえてきたような。
 私の目の前にパン。

「食え」

 これ、私の為に持ってきてくれたのかな。意外に優しいのかも。
 パンを口にして、すごく美味しく感じた。
 身体が小さいからか、それとも3日程食べていないせいか2、3口食べただけお腹いっぱいになった。
 あー、眠い。私は睡魔に襲われて眠りについた。





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2007.09.09