迷い込んだ先は

 今度は何処に飛ばされたのだろう。何度も繰り返すと慣れてくるもので身体を丸めて日向ぼっこをしている。
 太陽の陽気が気持ちよくていつの間に夢の中へ落ちていた。どのくらい寝ていただろうか、私の周りに複数のひとの声が聴こえる。ぴくぴくと耳を動かして声を拾う。
「ツナ」
「迷い込んだのか?」
「だろうな」
 確認の為に顔を上げると、目の前に白黒模様の――――。
「ぱ、……っ?! ぱんだにゃ!?」
 何故か、パンダがいた。
 動物園で見かけることはあっても自然界でパンダなんて見たことが無い。
 驚きすぎて、自分じゃあり得ないくらいに一瞬でパンダと距離が取れた。
「喋ったな、猫が」
「シャケ」
 そして、今、自分が猫だということを思い出した。
「見た感じ呪霊では無さそうだが……」
「シャケ」
 しゃけ……?
 しゃけってなに?
 しゃけでも落ちているのか周りをきよろきょろ探してみたけど、それらしきものはなかった。
 どういう意味なんだろう? もしかして、宇宙語? 見た感じ人間ぽいけど違うとか? パンダもしゃべっているくらいだし。
 今の状況を考えていると身体が宙に浮く。
「―――ぬ? にゃあああ?!!」
 何が起こったのか見上げると黒い翼の持ち主のカラスだった。
「わ、……わ、わたしっにゃあ、……食べものにゃないにゃん」
 必死で小さな身体をじたばたと動かしているとカラスの脚から離れて下へ真っ逆さま。
「ぬ、―――にゃあああ?!!」
 このままじゃ、悲惨な死に方が眼に見える。それだけは嫌だ。
 泳ぐように手足を動かしても重量に従って下へ落ちていく。もうダメと思ったけど、柔らかいものが包んだ。恐る恐る眼をあけると、パンダの顔が目の前にあって、未來の頭はショートして意識を手放した。
 きっと、わたしはパンダに食べられる。わたしの人生なんだっただろう――。と、思いながら。
 未來が次に目を覚ましたときは、空の青さではなく見慣れない天井だった。
「……此処はどこにゃー?」
「呪専高だよ」
「…………は!」
 眼を隠した男がいた。
 見てているだろうか。男を凝視するかのように見つめる。
「見た感じ呪霊でも、呪骸ではなさそうだけど……喋る猫ねえ」
「じゅにゃ、…じゅにゃ………。なんにゃあ?」
 腹立つなあ。めちゃ笑っているし。言えないことがそんなに可笑しいか。ばしばしと尻尾が地面を叩く。
 目隠し男は一通り笑った後、呪霊と呪骸の説明をしてくれたのでなんとなくわかった。難しかったけど。
 実在するものに対する負の感情が呪いとなったものが呪霊で。内側に呪いを宿し自立可能な無生物が呪骸であっているよね。
 私はどちらも属さないってこと。
 此処まで分かった。何故、猫の姿で話せるのかはわからなかった。今までの事を考えると特に意味はないと思うけど。
「困ったにゃあ」
「くくっ、…それにしても、帯が可愛いねえ」
「うるさいにゃあ!」
「この姿で怒ってもねぇ」
 ムカついたので、猫パンチを一発入れてあげた。








2021.06.14