想楽くんの嫉妬


「ねえ、プロデューサーさん」
「はい、何でしょう?」
「この前の撮影、そうこれこれ、この写真。僕の表情、普段の感じと違ったけど、これでよかったのかなー?」
「はい!それはもう!普段の穏やかな感じとはまた違った、ちょっと好戦的な感じの北村さんですね。ファンの方からの評判もいいんですよ!ギャップを感じてもらえたみたいです!」
「ふーん…。ギャップかあ。プロデューサーさんも?」
「え?」
「プロデューサーさんもギャップ、感じてくれたの?」
「そうですね…北村さん、大人しいだけの方じゃないのは知ってましたから。私だけが秘めておくには、勿体ないと想ってましたし、そこまでは。やっと出してくれたなあ、という感じですね」
「言ってくれるねー。そっかー、プロデューサーさんにはバレてたかー。」
「ええ、スイッチ入った時の北村さんも、とても素敵です」
「…プロデューサーさんが独り占めしてくれても、よかったんだけどなー。」
「え?」
「ううん、じゃあねプロデューサーさん、僕行くねー」
「は、はあ…。」



プロデューサーさんに用事があって事務所に寄ったのに、漏れ聞こえる声のせいで扉の前から動けない。

「名前、最近休んでないだろ?俺らのこと考えてくれるのは嬉しいけど、名前も休んでくれよ」
「ありがとうございます、輝さん。大丈夫ですよ!体調管理は得意なんです」
「そうじゃなくて…俺が、心配なんだよ。俺だけじゃない、桜庭も柏木も、事務所のみんなが」

輝さんとプロデューサーさんが話をしてる。二人が並んでるの、なんとなく、面白くないなー。確かに輝さんとプロデューサーさんは年も近くて、大人で。僕はまだ成人ですらなくて。…なんだろ、この感じ。苛立たしい。

扉が大きく開いて、輝さんが出てきた。しまった、盗み聞きしてたのバレたかな。

「お、想楽!お疲れさん。どうかしたのか?」
「…輝さん、お疲れ様ー。何でもないよー。」
「あー…そうか?ならいいけどよ、盗み聞きはよくないな。」

やっぱ、バレてた。途端に頭に血が昇って、感情が大きく揺れる。

「何それー?いい加減なこと言うのやめてよね。」
「はは、悪かったよ。じゃあな」

軽やかに階段を下りて、輝さんは姿を消した。
見透かされたようで面白くない。名前、名前と名前を呼ぶのも。

「プロデューサーさん」
「北村さん!お疲れ様です、どうかしました?」

プロデューサーさんはいつもと同じ笑顔で迎えてくれる。この笑顔が好きだった。でも、今は別だ。誰にでも見せる表情がほしいわけじゃない。

「輝さんと何話してたのー?」
「え、輝さんと?えっと…」
「…輝さんのことは、輝さんなんだねー。僕のことは名字なのに」

呆気に取られたような顔のプロデューサーさん。胸が少し透くような思いがした。性格悪いな、僕。

「え、えと、そうですね…?輝さんとは付き合いも長いですしいつの間にか…。」
「へえー。僕のことは、いつになったら名前で呼んでくれるー?」

一歩、また一歩とプロデューサーさんに近づいて。
逃げ場をなくす、こんな余裕のなさに吐き気がした。

「それとも…輝さんはプロデューサーさんにとって特別?」
「いやあの、北村さん?何を言いたいのか…そんなんじゃありません、みなさんは大切なアイドルで」
「そっかー、よかった。じゃあ僕のことも名前で呼んで。僕も、名前って呼ぶよ。ねぇ、名前さん」
「え、あの、北村さん」
「想楽」
「想楽、くん?」
「だめ。想楽」
「…想楽」
「…よくできました」

ほんとはこのままキスして、抱き締めてしまいたかったけど。
輝さんより一歩リードだし、満足だ。

「じゃあね、名前さん。また明日」
「は…北村さん、」
「言ったよねー?だめだって」
「…想楽、どうして、」
「二人の時はそうやって呼んでほしいなー。約束だよ」

追い詰めた名前さんの顔は初めて見る表情だった。
ただ指くわえて見てるだけだなんて、思わないでよね。



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