君のことが知りたい
「もう! 赤也ったらしつこいんだから!」
部室で休憩していたら扉を閉める音とため息と共に御崎が駆け込んできた。
「なんじゃ、騒がしいのう」
「仁王じゃん。こんなところに居たの?」
椅子から起き上がって声をかければ、御崎は「真田が探してたよ」と言いながら向かい側の席に座った。
「また赤也に試合申し込まれたんか?」
「そう。ブランクあるし怪我したくないし嫌だって言ってんのにさ〜毎日だよ?」
次のテストで全教科百点が取れたらって条件にでもしようかしら。御崎は本日二回目のため息をつく。
事の発端は数日前。部活中に柳生や丸井、ジャッカルと話していたらやって来た赤也が御崎にテニスの試合を申し込んだのだった。赤也の話によると、柳との会話の中で御崎がテニス経験者だと判明したらしい。マネージャーのわりにルールはもちろん練習法や戦術にも詳しいからもしかしたらとは思っていたのだが、ジュニア大会で優勝経験があるというのには俺たちも驚きだった。赤也が試合をしたがるのも納得だ。
しかし御崎は試合をすることを頑なに拒否。結果、毎日ボール拾いのノルマを終えた赤也が御崎に試合を申し込んでは断られるという今の図ができあがったのだ。
「一回相手してやればあいつも気が済むじゃろ」
「私が大怪我して血だらけになったら、あんた責任取れるの?」
御崎が断る理由がさっき言っていたようにブランクがあるのと怪我 をしたくないから。だけど俺は、御崎が試合を嫌がるのには何か別の理由もあると思っていた。選手ではなくなってもマネージャーとして関わっていることもあり、テニスが嫌いになったというわけではないだろう。月刊プロテニスを毎月購入したり積極的に後輩を指導したりする姿もよく見かけるし、むしろまだ好きなはずだ。でも、それでもテニスを辞めなくてはならなかった、辞める決断をさせてしまった、何か別の理由が。
「御崎は」
「ん?」
「もう、テニスはしないんか」
純粋な好奇心だった。御崎は一度目を伏せ、小さく頷いた。
「やらないよ。…………私にはもう、本気でテニスをしてるみんなと同じようにコートに立つ資格無いもん」
決意と、寂しさと、後悔と。そんな感情が混ざったような表情。何か声を掛けなければ。口を開こうとするよりも前に御崎がパッと顔を上げた。
「この話はもうおしまいね! 早くコートに戻ろ、そろそろ顔出さないと真田に鉄拳制裁されちゃうよ」
「プリ。それは遠慮したいのう」
先に行くね。部室を出て行く背中を見送る。
「コートに立つ資格ない、か…………」
神奈川へ引っ越して来る前のことを御崎はあまり語りたがらない。それでもたまに話すと見せる表情から良い思い出が少ないのは確かだった。でも、それでも今だけじゃなく過去の彼女のことも知りたいと思ってしまうのは、本当にただの好奇心なのか、それとも。
「厄介なことになったのう…………」
胸の中で確実に大きくなっている感情を落ち着かせるように息を吐き、少し前を歩いている彼女を追いかけた。