恋の方程式は導けない
昼休みが終わった後の屋上は静かで日当たりも良く、五限の授業をサボって昼寝をするには絶好の場所だ。いつものように梯子を使って給水塔へ上がると、そこには先客の姿があった。
「…………寝とる」
クリーム色のカーディガンを毛布代わり、メイク道具やら何やらが入っているのであろう大きめのポーチを枕にしてすやすやと寝息を立てている御崎は、学年が上がってから屋上にやってくる回数が目に見えて増えていた。
教室に居たくない理由でもあるのか、それは俺の考えすぎでただの気まぐれか。クラスもつるんでいる友人のタイプも違う俺には真実はわからない。そもそも、御崎自体がときどき何を考えているのかわからない奴だ。
「仁王ってほんとなに考えてるかわかんない」
御崎はゲラゲラ笑いながら散々言ってくるが、俺に言わせれば御崎の方がよほどそう見える。
強い風が吹いて、こげ茶色の髪が彼女の顔にかかった。サラサラのそれを退かし、するりと頬を撫でる。
「ふっ、無防備じゃの」
これじゃ誰に何をされても文句は言えん。そう言えば御崎はきっと「私と仁王以外、この時間に屋上に来る人いなくない?」などと笑うのだ。そこで初めて言動の予想ができるくらい彼女を観察していた自分に気づき、零れるのは呆れ笑い。
わからない。理解できない。最初は俺もそう思っていたはずだ。そんな彼女のことを知りたいと、理解したいと思うようになったのはいつからだったか。
「んん……?」
御崎の目が薄っすらと開く。気づかれないように触れていた手を話した。
「おはようさん」
「におう?」
上体を起こし、まだ寝ぼけているのかぼーっと俺の顔を見ていた御崎は突然何を思ったのか、バッと勢い良く両頬に手を当てた。
「…………なにした?」
「は?」
「顔! 私が寝てる間になんかしたでしょ!」
どうやら俺が何かイタズラをしただろうと言いたいらしい。そんなことしていないのだが、反応が面白くてついからかってしまう。
「わかった、落書きしたんでしょ」
「プリ」
「えっ、本当にしたの? ありえないんだけど! 私もうぜったい仁王の前で寝ないから!」
さっきまで枕になっていたポーチから手鏡を取り出し自分の顔を確認した御崎は、ジトリとした視線をこちらに向ける。
「…………何も書いてないじゃん」
「落書きしたとは言っとらんじゃろ」
「だって仁王でしょ、やりそうじゃんか」
小さな詐欺に対してですら大袈裟に反応し、クルクルと表情を変える御崎。
もしこの気持ちを伝えたら、一体どんな顔をするのだろう。それは気になったが、なんだかんだ気に入っているこの関係を壊すのは勿体ない気がして。
伝えたい二文字は、しばらく心の中にでも仕舞っておくことにしよう。腑に落ちないと言いたげな彼女を見てそう思った。