夏の日は恋かおる

 うわ、これやばいかも。思った瞬間に真っ暗になる視界。ぐらりと揺れる体。誰かが焦ったように自分の名前を呼んでいるのを聞きながら意識を手放す。

 次に目が覚めたとき、視界いっぱいに広がったのは真っ白な天井だった。窓の外から見える空はオレンジ色に染まりかけていて、入ってきた風がカーテンを揺らす。
 私、どうして保健室に居るんだろう。部活中に立ち眩みがしたのは覚えているけどその後のことは何もわからないし、ここまで自分で来た記憶はもちろんない。

 頭を持ち上げてぐるりと周りを見渡したとき、近くの椅子に人が座っているのに気づいた。
 耳を澄ますと微かに聞こえる寝息。どうして仁王がここに居るんだろう、今部活中のはずなんだけど。もしかしたら仁王がここまで運んでくれたのかな。考えながら顔を眺めていたら伏せられていた長いまつ毛が震えて、慌てて目を閉じる。

「まだ寝とる」

 呆れたように零し、こちらをじっと見てくる仁王。
 もし本当に運んでくれたのだとしたらありがたいけど、部活に戻らなくて良いのかしら。今が何時なのかわからないけどもう夕方みたいだし、早くしないと部活が終わっちゃう。

 目を開こうとしたとき、ふわりと甘い香りがした。近くに感じる熱。薄っすら目を開けたらすぐ目の前に仁王の顔があって危うく悲鳴をあげるところだった。ただでさえ近くにあるのにさらに近づいてくる琥珀色。ぎゅっと目を瞑ったら、何かが唇に触れた。

 動揺しているはずなのにやたらと冷静な脳が状況を解析する。キス、されてる? 私、仁王に。なんで、どうして?

 しばらくして顔を話した仁王はつまらなさそうにこちらを見下ろして、

「…………やっぱ起きんか」

 そりゃそうでしょうよ、おとぎ話のお姫様じゃないんだし。ていうかもう起きてるし。
 仁王はそろそろ戻るかとカーテンの切れ目から出て行った。扉が閉まった音を聞いて起き上がる。さっきの感覚がまだ唇に残っていて、顔に熱が集まっていくのを感じた。

「ほんと、意味わかんないんですけど」

 明日から私、どんな顔して仁王に会ったら良いんだろう。甘い香りの中、自分の膝に顔を埋めた。