波打ち際の朝日を待つ

 不思議な奴だ。隣に座り、まだ暗い海をじっと見つめている御崎を横目に見てそう思う。

 クラスの中では中心グループのメンバーのくせに「教室に居る気分じゃないから」と屋上に現れてシャボン玉を飛ばしたり、周りの人間の顔色を窺うように一歩引く姿勢を見せたかと思えば、先生や先輩、普通なら遠慮してしまいそうな相手にもはっきりと意見を述べたり。常識的かと思いきや急に突拍子もないことを思いついて連絡を寄越して来ることだってある。

 今こうして宿泊先のホテルを抜け出して堤防に腰掛けているのだって「日の出見に行こうよ。バレなければセーフでしょ?」というメッセージを受け取ったからだった。

 夜が退いていく。漆黒は群青色に変わり、背後から広がった明るさで明度を増す。彩りをつけ始めた世界に、やがて最初の光が差し込んできた。

「ねえ、もっと海の方まで行ってみようよ」

 脱いだサンダルを片手に歩き始めた御崎の後を追う。足元でぴちゃぴちゃと水が跳ねた。

「夜明けの海ってさ、なんかいいよね。それまでの嫌なこととか悩みとか全部リセットされて、新しい日が始まるって感じで」

 言葉の真意を探るように隣に並ぶ横顔を盗み見れば、じっと水平線を見つめる瞳が細められた。何かを隠したり我慢したりしているとき、御崎はこの顔をする。

『仁王には、私ってどう見える?』

 以前そう聞かれたときと同じだった。何かを恐れるように揺れる瞳と、らしくもなく僅かに震える声。
波が砕け、寄せては返す。潮風にシャツがパタパタと音を立てた。

「天国ではみんな、海の話をするんだって」

 いつか一緒に観た映画のセリフ。ゆらり、御崎が一歩前へと踏み出した。その後ろ姿はどこか儚くて、太陽の眩しさに目を瞑った瞬間、退く夜と共に消えてしまいそうで。

「えっ、なに?」

 咄嗟に腕を掴めば、振り返ったアメジストの中に俺の姿が映る。何も言おうとしない俺に、彼女の細い眉が訝しげに細められた。まるで「何を企んでいるの?」とでも言いたげな顔だった。

「なんでもないぜよ」
「なにそれ、変な仁王」
「…………転ばんように気をつけんしゃい」

 太陽が完全に顔を出す。光を浴びてきらめく水平線を、俺たちはしばらくの間眺めていた。