進級の天敵

 年に一度、四月の初め。学生であり恋する乙女でもある私たちには、天敵と言っても過言ではないイベントが存在する。その名は、クラス替え。

 そんなこと? って言われるかもしれないけど、当事者からすればクラス替えはその恋の運命を左右することもある重要なイベントだ。どこのクラスになるか次第で、その一年どのくらい意中の相手と関わりが持てるのかが決まるのだから。同じクラスだったら最高。違ったときは隣のクラスならまだ良いけど、学年の端と端になんてなったらもう地獄。現に私は去年、気になるあいつとクラスが違ったせいで修学旅行先の沖縄を一緒に見て回ることができなかった。「クラス違うしだんだん話さなくなって冷めた」などと語る友人もいる。
 そんなこんなで中学三年生になる四月、始業式。今年こそはと意気込んだ結果、柄にもなく同じクラスになれるというおまじないをひたすら漁ったり、「同じクラスになれなかったらどうしよう⁉」なんて緊張と不安もあったりで、昨日の夜はろくに眠れなかった。

 着慣れた深緑色の制服に身を包み、あくびを噛み殺しながら、登校時間ギリギリで人気のない海沿いの通学路を歩く。
 校門を通過して昇降口へ向かうと、ガラス戸に白い紙が何枚も張り出されているのが見えてくる。もう少し早く来ていたら人で溢れかえっていたはずのそこも登校ラッシュの時間を過ぎたせいかすごく静かで、私と同じように遅めの時間を狙ったのであろう生徒の姿がちらほら見えるだけだった。

 一覧が見える位置まで近づいて深呼吸して、順番に名前を確認していく。
 A組の中には私たちの名前はなかった。ふう、と息を吐く。ふたりとも名前がなかったということは、若干だけど同じクラスの確率が上がったってこと。もちろんそれも嬉しいけど、A組に名前があった真田、柳生という私の中の口うるさいランキング上位なふたりとクラスが違うということは喜ばしいことだ。本人たちには口が裂けても言えないけど。

「よし、次」

またゆっくりと名前を確認していく。B組十五番あたりに差し掛かったとき、「仁王雅治」という名前を見つけて息が止まるかと思った。こんなにも早く見つかるなんて聞いてない。いや、それはそうなのだけど。こんなにドキドキするくらいなら一番後ろのクラスから確認すれば良かった。

 大きな音を立てる心臓を制服の上からの押さえ、続きを確認する。もし同じクラスだとしたら近くに自分の名前もあるはず。仁王の下には知らない子の名前があって、その下には同じテニス部の丸井の名前があった。そして、

「あった!」

 思わず小さくガッツポーズ。信じられなくて何度も目を擦り確認したけれど、何回見直しても丸井の下に「御崎優音」と自分の名前が書かれていた。

 さっきまでとは打って変わって、軽い足取りで三年生の教室までの廊下を歩く。B組の教室からは外でもはっきり聞き取れるほどの賑やかな声が溢れていた。

「あ、優音!」

 教室へ入ってすぐ、私に気づいた友人のひとりが駆け寄ってきた。

「やば、同じクラス?」
「そう! B組テニス部の仁王とか丸井もいるんだよ、今年のクラス最強すぎ!」

 はしゃぐ友人の話を聞きながら自分の席に荷物を置く。前の席の丸井が「お、優音じゃん」と振り返った。

「一年間シクヨロ」
「よろしく丸井。あと、仁王も」

 丸井の前の席に座っていた仁王が「プリ」といつもの言葉を発する。中三になっても仁王語は健在らしい。

「まさか、最後の最後で御崎と一緒になるとはのう」
「ほんとだよ、同じクラスは無いかなって思ってた」

 ガラッと音を立てて扉が開き、先生が教室に入ってくる。自分の席に戻り、初日だというのに既に寝る体勢を取っている仁王の背中が見えて思わず笑みが零れた。