シアターの明かりが落ちる頃

「レイトショーって人少ないんだね」

 昼間の人が多いときにしか来ないから、変な感じ。いつもなら満席のシアターには、私たち以外に仕事帰り風のお姉さんとか大人のカップルくらいしか居ない。キョロキョロしている私をちらりと一瞥した仁王は「集中できるしええじゃろ」と他の席よりもふかふかのシートに沈んだ。

 仁王のお姉さんがくれたという話題のファンタジー映画のチケット。レイトショーだったことや、辿り着いた席がカップルシートだったことには驚いたけど、上映前も静かなこの感じは嫌いじゃないかも。それに仁王はよくレイトショーを観に行くって前に聞いたことがあったから。こうして同じ時間を共有できているのが嬉しい、なんて。ちょっと私らしくないかな。

ちらり。隣の仁王を見る。彼は上映中の注意事項が書かれたスクリーンを見ながらポップコーンを口に運んでいた。始まる前からそんなに食べて、途中で足りなくならないのかな。もしそうなったとしても、自業自得だから私の分はあげないけど。

 自分のメロンソーダをひとくち飲んでシートに沈み込む。オレンジ色の灯りがだんだん消えていって、映画館でおなじみのマナームービーが流れる。暗い空間で観る、映画越しの非日常の世界。その特別感が心地良いから、映画を観るのが好きだった。

「優音」

 本編前のCMも終盤に差し掛かった頃、小さな声と共につん、と腕がつつかれた。
隣を向く。同じようにこちらを見ていた仁王と目が合った。ちょうど流れている恋愛映画のCMとリンクするように、仁王の大きな手が頬を撫でる。思わずぎゅっと目を瞑れば、唇に柔らかいものが触れた感触。それは何度か重なった後、軽く上唇を食んで離れていった。

「ちょ、なに、急に」

いくら暗いって言ったって他の人もいるのに。ムッと睨み付けると仁王は

「したくなっただけ」なんてあまり反省していないような顔で笑う。付き合い始めてしばらく経ったけど、仁王のスイッチというか、タイミングみたいなのは未だによくわからない。振り回されっぱなしなのは、やっぱり悔しいけど。
 冒険の始まりを表しているような音楽が流れ始めてスクリーンを見る。映画を観ている途中、一瞬当たった手を繋いでみたらきゅっと指先が絡められた。