あの恋をもう一度

恋の始まりは突然だと言うけれど、恋の終わりも突然に、それも唐突に訪れるものだ。

「私、高校は外部に行くことにしたんだ」

あの秋の日、遠い空を見つめて彼女はそう言った。
雨上がりのきらきらと輝く屋上。分厚い雲の間から太陽が顔を出して、ふたつの影を作り出す。
言いたいことはたくさんあるはずなのに、なにを言ったとしても正解ではないような気がして。

結局、当時の俺はただひとこと、「そうか」と呟くことしかできなかった。



「そういえば、次のクラス会は優音も来るらしいぜ」

定期的に行われているらしい中学時代のクラス会に珍しく参加する気になったのは、幹事の丸井からそんな話を聞いたからだった。

御崎優音は、中学のときテニス部でマネージャーをしていた女子生徒だ。
同じクラスになったのは三年のときだけだったものの、部活が同じで比較的近所に住んでいたのもあり、部内では親しくしていた方だったはずだ。

「お前もたしか仲良かったよな? 覚えてる?」
「……ああ、覚えとる」

脳裏にある光景が浮かぶ。
ある秋の日、雨上がりの屋上、風で揺れる栗色の髪とアメジスト、名前を呼ぶ甘い声。

覚えている。いや、忘れるわけがない。俺は、彼女のことが好きだった。



そんな丸井との会話から数ヶ月が経ち、クラス会の日がやってきていた。

「ねえ、仁王……だよね?」

外の空気を吸おうと個室の外へ出たところで、店の中に戻って来るところだった女に声をかけられた。

「私のこと、覚えてる?」
「覚えとるよ。御崎じゃろ」

そう答えれば、御崎はほっとしたように微笑んだ。

「高校は外部進学しちゃったし、仁王ぜんぜん目合わせてくれないんだもん、なかなか話しかけられなくて。勇気出してよかった!」
「中学んときあれだけ目立っとったしのう。俺じゃなくても覚えとるよ、きっと」

雰囲気もそんなに変わっとらんし。言いかけて、改めて目の前の彼女を見つめる。

明るくて華のある雰囲気は当時のままだったが、やはり少し大人っぽくなったように感じた。
短くなった髪、相変わらず細いけれど昔よりもやや丸みを帯びたシルエット、酒でほんのりと染まった頬。

「……綺麗になったのう」

思わず呟けば、長いまつ毛にふち取られたアメジストがぱちぱちと瞬いた。

「ちょっと、なに言ってんの! 仁王ってそんなキャラだっけ?」
「本心じゃよ」
「もう、からかうのやめてよ。どうせ得意の詐欺でしょ」

赤みを増した頬を手で仰ぎながら個室へ戻ろうとする御崎の腕を掴む。
振り返るのに合わせてあの日のように栗色の髪が揺れる。

「今からふたりで抜け出そうって言ったら、どうする」

もし、彼女の答えがイエスなら。
あの日止まった恋の続きを、もう一度始めてみてもいいだろうか。