夜を追い越して
「明日、帰ることになったぜよ」
スマートフォンのスピーカーを通して聞こえた仁王の言葉に、優音はファッション雑誌をめくっていた手を止めて顔を上げた。
「急だね。またイリュージョン道具の調達?」
「今日で合宿が終わったんじゃ」
「へえ〜……ええっ⁉」
そういうのはもっと早く言ってよ。しかめっ面の優音に画面の向こうの仁王はきょとんとした顔で首をかしげる。
「……言っとらんかったかのう」
「言われてたらこんなに驚いてないから! もー、雅治のばか!」
明日の予定ってどんなだったっけ。頭の中にスケジュール帳を広げる。朝一番に美容院の予約をしているけれど、お昼以降は特に予定は入れていなかったはずだ。
仁王がアンダーセブンティーンの合宿へ呼ばれてからどのくらいの期間が経っただろう。長いようであっという間だった気もする。
ときどき練習のない日に帰省してきたり、優音が用事があって出向くこともあったりしたけれど、中学へ入学してから毎日のように顔を合わせてきたのだ。長期休みでもないのに何日も顔を見ないのはなんだか物足りなくて、心にぽっかりと穴が開いたみたいに寂しかった。だけど明日からは、会いたいと願えばいつでも会える距離にいられる。そう思うと頬がゆるんでしまいそうだった。
「どうやって帰ってくるの?」
「学校までバスの予定じゃ」
「ふーん、じゃあ着くの夕方くらいかな。なら間に合いそう」
「ん? 優音、迎えに来てくれるんか?」
「え?」
目を瞬かせる。考えてみれば、仁王は明日帰ると伝えてきただけで、ひと言も「来てほしい」なんて言っていなかった。首筋がかあっと熱くなる。これじゃまるで、優音が仁王に会いたくて仕方ないみたいだ。いや、間違ってはいないのだけど。でも。
「優音ちゃんは俺のことが大好きじゃのう」
「はいはい、雅治くんのこと大好きですよ。悪い?」
ふいっと顔を背けると、ふっと笑う声がする。
「いや、俺も早く会いたいぜよ」
思わずまじまじと画面の向こうの仁王を見た。何か作業でもしているのか、照れ隠しか、目線は手元に向けられているけれど。
「……雅治、耳赤いよ」
「おまんも顔真っ赤じゃよ」
「あのね、雅治に聞いてほしい話がたくさんあるの」
うん、と返ってくる返事が心地良い。早く明日が来ればいいと、ベッドに寝転がった。