恋人の鏡司くんは雨男だ。彼とのデートの日には高確率で雨が降る。前回のデートは降らなかったけれど、前々回のデートの日は朝から雨が降っていた。そういえば、今年の彼の誕生日も途中で雨が降ってきたっけ。

 待ち合わせの駅にある、改札を出てすぐの喫茶店。ミルクティーを飲みながら窓の外に視線をやる。空はどんよりと重たい雲で覆われていて、数分前からぱらぱらと降り始めた雨がわずかに勢いを増してアスファルトを叩いていた。どうやら今回も雨の日デートになるらしい。

 昔は雨の日が苦手だった。だって、空気はなんだかじめじめするし、髪はうまくまとまらないし、お気に入りのワンピースの裾は濡れちゃうし。
 そんな雨の日が、苦手じゃなくなったのはいつからだろう。雨を見て愛おしいと思うようになったのは、切なくて甘い気持ちで胸がいっぱいになるようになったのは、いつからだっただろう。

 ぴろん、とスマホの通知が鳴った。同時に大勢の人にまざって改札の中から彼が出てくるのが見えて、急いで喫茶店を出る。

「鏡司くん!」

 大きく手を振れば、私に気づいた鏡司くんが早足でこちらへ近づいてきた。

「遅れてすまない。待たせてしまったかな」
「気にしないで、私もちょっと前に来たところだから」

 本当は、久しぶりのデートが楽しみすぎて三十分も前には着いていたのだけれど。優しい彼が気にしてしまわないようにそう言えば、ほっとしたように吐かれる息。

「映画の時間もあるし、そろそろ行こうか」
「うん。……あっ」
「どうかしたかい?」

 自然をよそおってあげた声に歩き出そうとしていた鏡司くんが振り返る。

「傘、家に忘れてきちゃった……」
「……君は本当によく傘を忘れるね。もう何度も、僕と会う日は折りたたみ傘を持っていたほうがいいと言っているのに」

 ごめんね、と眉を下げれば鏡司くんは「別に責めたいわけじゃなくてっ」と慌てた様子で首を振った。それから照れくさそうに視線を泳がせて、

「……ほら、入りなよ」
「ありがとう」

 お礼を言ってこちらに傾けられた彼の傘の中に入る。男のひとの傘は大きいけれど、ふたりで入るとやっぱり少し手狭で。距離が近づくようにそっと腕に触れると、鏡司くんの耳がほんのりと赤くなった。

 傘の中でなら、そっとあなたに触れても自然に見えるから、いつもわざと忘れてるんだよ。そう伝えたら、鏡司くんは呆れるだろうか。「そんなことで風邪でもひいたらどうするんだいっ!?」と叱られてしまうかも。
 ふふ、とこぼれた笑み。なにかあったのかと尋ねる鏡司くんに「なんでもないよ」と返した。
back