Happy Birthday to me
誕生日。それは年に一度、たくさんの人から祝福をもらうことができる特別な日。
気まぐれに取り組んでいるダイエットもその日だけはお休み。家族とか恋人とか、大切な人たちと一緒に朝から夜まで美味しい料理とかわいらしいデコレーションが施されたケーキをお腹いっぱい食べて、夜は友達からもらったプレゼントを開けて、メッセージカードを眺めながら一日を振り返る。それが私の理想の誕生日の過ごし方。憧れの誕生日。
……だというのに、どうして私は今、会社の最寄り駅から自宅の最寄り駅へと向かう電車の中にいるのだろう。
べつに特別な答えはなかった。今年の私の誕生日が金曜日で、繫忙期だから休みを取るのが気まずくて出勤した。それならばせめて定時に帰ろうとしていたら、急ぎの仕事が舞い込んできて残業になった。ただそれだけのこと。普段なら気にもしない日常。
だけど、今日は年に一度の特別な日なのだ。少しの愚痴くらい許してほしい。だって、この時間じゃケーキ屋さんももう閉まっちゃってるし。
ため息と一緒に電車を降りて改札を出る。ぶるぶると手にしていたスマートフォンが震えた。暗い背景に白く浮かんでいたのは「辰己琉唯」という四文字。
恋人の琉唯くんが前触れもなく電話をかけてくるなんて珍しい。それに、今日は地方での公演を終えて帰ってくる日だったはずで。彼の身になにかあったのだろうか。頭をよぎった不安を振り落とすようにさっと画面をスライドする。
「もしもし、琉唯くん?」
『ミョウジ?』
聞こえてきた数日ぶりの琉唯くんの声はいつも通りやわらかくて落ち着いていて、ほっと息をついた。よかった、なにかあったわけではないみたい。
『ふふ、なんだか久しぶりにきみの声を聞いた気がするな。さっき仕事が終わったって連絡がきていたから電話を掛けてしまったんだけど、大丈夫だった?』
「大丈夫だよ、最寄り駅の改札を出たところ。今日ちょっと仕事が長引いちゃって」
『本当? それなら、ちょうど良いタイミングだったかな』
「タイミング?」
一体なにのことだろうと首を傾げる。おかしそうに笑った琉唯くんの声と一緒に最寄り駅のアナウンスがスマートフォンの向こう側から聞こえてきた。
「……ねえ、琉唯くん今どこにいるの?」
「後ろ、見て」
すぐ近くから聞こえた声にばっと振り返る。そこには「こんばんは」と微笑み手を振る琉唯くんが立っていた。
「え! どうして!?」
「誕生日おめでとう、ミョウジ」
数日ぶりの再会はとても嬉しいけれど、それよりも驚きのほうが大きくて。なんで? どうして? デートの約束、今日はしてないはずなのに。
固まってしまった私の腕からそうするのが当たり前かのようにするりとバッグを奪い去り、琉唯くんは続けた。
「今日はきみの大切な日だろう? どうしても日付が変わってしまう前に会いたくて、新幹線を降りてそのまま来たんだ。ふふ、驚いた?」
「すっごく驚いた」
「それならサプライズ大成功だ」
バッグを持っていない手の指先が私の指先と絡まる。
「きみが好きなケーキも買ってきたんだ。ねえ、今から部屋に行ってもいい?」
「もちろん! ありがとう琉唯くん」
あと数時間の誕生日だけど、素敵な一日になりそう。そう言えば穏やかなミントグリーンが優しく細められた。
気まぐれに取り組んでいるダイエットもその日だけはお休み。家族とか恋人とか、大切な人たちと一緒に朝から夜まで美味しい料理とかわいらしいデコレーションが施されたケーキをお腹いっぱい食べて、夜は友達からもらったプレゼントを開けて、メッセージカードを眺めながら一日を振り返る。それが私の理想の誕生日の過ごし方。憧れの誕生日。
……だというのに、どうして私は今、会社の最寄り駅から自宅の最寄り駅へと向かう電車の中にいるのだろう。
べつに特別な答えはなかった。今年の私の誕生日が金曜日で、繫忙期だから休みを取るのが気まずくて出勤した。それならばせめて定時に帰ろうとしていたら、急ぎの仕事が舞い込んできて残業になった。ただそれだけのこと。普段なら気にもしない日常。
だけど、今日は年に一度の特別な日なのだ。少しの愚痴くらい許してほしい。だって、この時間じゃケーキ屋さんももう閉まっちゃってるし。
ため息と一緒に電車を降りて改札を出る。ぶるぶると手にしていたスマートフォンが震えた。暗い背景に白く浮かんでいたのは「辰己琉唯」という四文字。
恋人の琉唯くんが前触れもなく電話をかけてくるなんて珍しい。それに、今日は地方での公演を終えて帰ってくる日だったはずで。彼の身になにかあったのだろうか。頭をよぎった不安を振り落とすようにさっと画面をスライドする。
「もしもし、琉唯くん?」
『ミョウジ?』
聞こえてきた数日ぶりの琉唯くんの声はいつも通りやわらかくて落ち着いていて、ほっと息をついた。よかった、なにかあったわけではないみたい。
『ふふ、なんだか久しぶりにきみの声を聞いた気がするな。さっき仕事が終わったって連絡がきていたから電話を掛けてしまったんだけど、大丈夫だった?』
「大丈夫だよ、最寄り駅の改札を出たところ。今日ちょっと仕事が長引いちゃって」
『本当? それなら、ちょうど良いタイミングだったかな』
「タイミング?」
一体なにのことだろうと首を傾げる。おかしそうに笑った琉唯くんの声と一緒に最寄り駅のアナウンスがスマートフォンの向こう側から聞こえてきた。
「……ねえ、琉唯くん今どこにいるの?」
「後ろ、見て」
すぐ近くから聞こえた声にばっと振り返る。そこには「こんばんは」と微笑み手を振る琉唯くんが立っていた。
「え! どうして!?」
「誕生日おめでとう、ミョウジ」
数日ぶりの再会はとても嬉しいけれど、それよりも驚きのほうが大きくて。なんで? どうして? デートの約束、今日はしてないはずなのに。
固まってしまった私の腕からそうするのが当たり前かのようにするりとバッグを奪い去り、琉唯くんは続けた。
「今日はきみの大切な日だろう? どうしても日付が変わってしまう前に会いたくて、新幹線を降りてそのまま来たんだ。ふふ、驚いた?」
「すっごく驚いた」
「それならサプライズ大成功だ」
バッグを持っていない手の指先が私の指先と絡まる。
「きみが好きなケーキも買ってきたんだ。ねえ、今から部屋に行ってもいい?」
「もちろん! ありがとう琉唯くん」
あと数時間の誕生日だけど、素敵な一日になりそう。そう言えば穏やかなミントグリーンが優しく細められた。