窓から差し込むやわらかい光とスズメの鳴き声、それからだれかの視線を感じてゆっくりと目を開く。
「おはよ」と声がして、ぼんやりとした視界の向こう、こちらを見つめている切れ長の瞳と目が合った。

「……おはよう」
「すげー眠そう。まだ寝ててもいいぜ」
「んーん、もう起きる」

 そう言ったものの、頭の中はまだ半分くらい夢の中。仕方なく、なぜかずっと私の様子を眺めている虎石くんを見つめ返した。
 朝の光に照らされた虎石くんの瞳は宝石みたいだった。きれいで、きらきらしていて、見つめ続けていたら吸い込まれそう。なんだっけ、昔読んでいた少女漫画に出てきた、宝石の名前のかっこいい人。彼は、あの宝石の名前は何だっただろう。
 考えを巡らせたままぼーっ眺め続けていたら、虎石くんがふっと笑った。

「オレの顔見てるの、楽しい?」
「べつに、虎石くんの顔を見ていたわけじゃないんだけど」
「じゃあなに見てたの?」
「ないしょ」

 だって、瞳が宝石みたいできれいだって考えていたなんて話したら、虎石くんは調子に乗るに決まっている。

『オレのこと大好きじゃん』

 まんざらでもなさそうな顔をしてそう言うのが目に見えていた。大好きなのは事実でも、私ばかりが好きみたいで悔しいという気持ちもあって。だからそう、余計なことは言わないにかぎるのだ。

「……虎石くんこそ、私の顔見てるの楽しいの?」

 きっと、ずいぶん前から起きていたのだろう。寝起きはいつも重たそうな瞼が今日はぱっちりと開いていた。

「楽しいぜ」

 虎石くんの日に焼けた骨張った手が伸びてきて、するりと私の頬を撫でた。だんだんと近づいてくる整った顔と、さっきまで眺めていた宝石みたいな瞳。
 目が離せないままお互いの前髪が触れ合いそうな距離まで近づいたところで、虎石くんはニヤリと唇の端を釣り上げた。

「ほら、こうやってころころ表情が変わる」
「もう、からかわないで!」
「悪かったって、そんな怒んなよ」

 ぽこぽこと胸板を叩いていた私の手を簡単に捕まえて、虎石くんの顔が再びぐっと近づく。じぃっと見つめてくる視線が恥ずかしくて目を閉じたのと同じタイミングでちゅっと音を立てて唇が重なった。

「はは、顔真っ赤。かわいい」
「……虎石くんのそういうとこ、きらい」
「オレは好きだよ」

 もう知らない。くるりと反対側を向けば降ってくる笑い声。すぐからかってくる虎石くんのことはきらいだし、いつでも私より余裕があるのはちょっとむかつくけど。でも、こうやってゆっくりする朝はきらいじゃないかなって、単純な私は思うのだった。
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