きみとの時間が甘いから
視線を感じて顔を上げた。テーブルの向こう側、頬杖をついた和泉くんがこちらを見つめていた。
お互いなにも言わないまま見つめ合うこと、およそ数秒。ずっと向けられているフォグブルーの瞳にしびれを切らして、アップルパイの乗ったお皿の上にフォークを置いた。
「なに?」
尋ねれば、和泉くんは腕を組んで「うーん……」と声を漏らす。
「なーんか今日、いつもとちがう気がするんだよな」
「ちがう?」
「髪は切ってねえだろ? つーか切ってたら会ってすぐに気づくし」
服? ネイル? リップの色? 和泉くんのうなり声はなかなか止みそうにない。置いたばかりのフォークを持ち直してアップルパイを口に入れる。優しい甘さが口の中に広がった。
「あ、わかった」
ふわり。のびてきた和泉くんの手が前髪に触れた。突然のことに目を見開く。
「び、っくりした……」
「悪ぃ悪ぃ。アイシャドウ、いつもと色違うよな?」
言われて、今日は誕生日に友達にもらったアイシャドウをつけていたことを思い出す。でも、いつものおとなしめなブラウンが、気持ち明るめのオレンジに変わっただけ。男の人ならわからなさそうな、つけている本人すら忘れてしまうくらいの、わずかなちがい。
「よく気づいたね」
「当たり前だろ? どんな小さな変化でも気づくっつーの」
まあ、いつも見てるしな。和泉くんは自慢げに笑う。
「そう、すごいね」
そういうの、他の子猫ちゃんにも言ってるくせに。素っ気なく返したら、前髪をよけていた指先がするりと頬を撫でた。
「似合ってるぜ」
囁くような低い声。細められた優しい瞳。愛しくてたまらないとでも言いたげなその顔が自分に向けられている。自覚したらかあっと顔が熱くなってきて、慌てて目をそらした。
「照れてる?」
「べつに、そうじゃないけど」
「そういうとこも可愛いよ」
漂う甘い空気に耐えられない。照れ隠しに口をつけた大好きなはずのブラックコーヒーがいつもより苦いと感じたのは、間違いなく和泉くんのせいだ。
お互いなにも言わないまま見つめ合うこと、およそ数秒。ずっと向けられているフォグブルーの瞳にしびれを切らして、アップルパイの乗ったお皿の上にフォークを置いた。
「なに?」
尋ねれば、和泉くんは腕を組んで「うーん……」と声を漏らす。
「なーんか今日、いつもとちがう気がするんだよな」
「ちがう?」
「髪は切ってねえだろ? つーか切ってたら会ってすぐに気づくし」
服? ネイル? リップの色? 和泉くんのうなり声はなかなか止みそうにない。置いたばかりのフォークを持ち直してアップルパイを口に入れる。優しい甘さが口の中に広がった。
「あ、わかった」
ふわり。のびてきた和泉くんの手が前髪に触れた。突然のことに目を見開く。
「び、っくりした……」
「悪ぃ悪ぃ。アイシャドウ、いつもと色違うよな?」
言われて、今日は誕生日に友達にもらったアイシャドウをつけていたことを思い出す。でも、いつものおとなしめなブラウンが、気持ち明るめのオレンジに変わっただけ。男の人ならわからなさそうな、つけている本人すら忘れてしまうくらいの、わずかなちがい。
「よく気づいたね」
「当たり前だろ? どんな小さな変化でも気づくっつーの」
まあ、いつも見てるしな。和泉くんは自慢げに笑う。
「そう、すごいね」
そういうの、他の子猫ちゃんにも言ってるくせに。素っ気なく返したら、前髪をよけていた指先がするりと頬を撫でた。
「似合ってるぜ」
囁くような低い声。細められた優しい瞳。愛しくてたまらないとでも言いたげなその顔が自分に向けられている。自覚したらかあっと顔が熱くなってきて、慌てて目をそらした。
「照れてる?」
「べつに、そうじゃないけど」
「そういうとこも可愛いよ」
漂う甘い空気に耐えられない。照れ隠しに口をつけた大好きなはずのブラックコーヒーがいつもより苦いと感じたのは、間違いなく和泉くんのせいだ。