ノックと扉が開かれる音に振り返る。そこには、タキシードに身を包んだ晶の姿があった。

「へえ、似合ってるじゃん」

 ほんの少し目を見開いて数秒のあいだ固まったあと、ぶっきらぼうなひと言。

「晶もすごく似合ってる」

 そう言えば、「当たり前じゃん」とそっぽを向かれてしまった。

「そうだ。さっきね、team柊のみんなも来てくれたの」
「みんなが?」
「うん。戌峰くんがミュージカル始めちゃって、すぐ行っちゃったけど」

 戌峰くん、全然変わってないんだから。そう零す晶の顔は言葉に反して優しくて、なんだかんだ言いつつも仲良しなのが伝わってくる。

 共通の友達がきっかけで知り合った晶とお付き合いを始めてから数年が過ぎた。第一印象はきれいな男の子。身長は私と同じくらい。出会ってすぐの頃なんてまともに会話すらしてくれなかった彼と結婚することになるなんて、一体誰が想像しただろう。

「ふふっ」
「どうしたの」

 不思議そうな顔で近づいてきた晶を見上げる。

「なんでもないよ。ただ」
「ただ、何?」
「やっぱり晶は素敵だなって。私にはもったいないくらい」

 たまに口は悪いけど、優しくて頼れる彼は、この数年で出会った頃よりもぐんと男らしくなった。ミュージカル俳優として活躍してる姿は誰よりもかっこいい。
 だから、ときどき不安になるのだ。本当に、これからずっと彼の隣にいるのが私で良いのか、と。

「はあぁ……」

 盛大なため息。久しぶりに聞くそれになにを言われるのかとそわそわしていると、彼は目を逸らして小さく呟く。

「……隣にいて欲しいって思ってなかったら、プロポーズなんてするわけないじゃん」
「へ?」

 間抜けな声に、晶は顔を真っ赤にして私を両頬をつまんだ。

「っ……だから! キミだって素敵なんだから堂々としてろって言ってるの!」
「いひゃいんだけど!」

 いつも通りのやり取りが室内に響く。ふと、静かになった彼の手が今度は頬に優しく触れた。

「……あのさ」
「うん」

 真剣な表情。プロポーズされた日のことを思い出して、心臓がとくんと音を立てた。

「絶対に幸せにするから。だから……だから、これからもボクに着いてきて」

 こつん、と額を合わせて、今度は視線を逸らさずに言われる。嬉しさで胸がいっぱいになって、思わず溢れそうになった涙を拭う。

「はいっ……!」

 新しい生活に不安がないと言えば嘘になる。だけど、きっと晶と一緒なら大丈夫。この先もずっと、大好きな彼の隣を歩み続けられますように。祈りながら、そっと目を閉じた。
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