*「おとどけカレシ」パロ 



 相手の女や会社の金で美味いもんが食えて、たった一日で他のアルバイトとは比べ物にならないくらいの金が稼げる。チャラチャラしてる和泉と違って特別女好きでもない俺がこの仕事を始めた理由はそんなだった。
 店には「相手を本気で好きになってはいけない」なんてルールがあったが、指名してきた女の相手をする度に思うのは「めんどくせー」ばかり。客の女に本気になって店を辞めた和泉の話を聞いて「あいつ本当にバカだな」と思うくらいには当時の俺は冷めていたし、この先天地がひっくり返っても同じ状況になるなんてありえない。そう思っていた……はずだった。

「……」

 助手席ですやすやと寝息を立てて眠っているひとりの女。レンタルとはいえ彼氏が運転してやってるってのに爆睡とか、有罪すぎんだろ。
 彼女のマンションの前に車を停めて、ハンドルに凭れて寝顔を眺める。その顔は完全に安心しきっていて、信用されているのだと少し嬉しくなると同時に心配になった。こいつ、他の男の前でもこんな寝顔晒してんじゃねえよな? なんて、彼氏でもない俺が心配するのは変な気もするのだが。

 こいつとデートするようになってから、俺はどこかおかしい。この仕事を始めてそこそこ経つし、デートでいちいち浮かれるなんて柄じゃない。それなのにこいつといると妙に楽しくて、時間が過ぎるのがあっという間で、別れた後も明日はどこへ行こうだとか、今何してるだろうだとか、これまでの自分じゃありえないことを考えてしまう。まったく、俺らしくもない。

 俺らしくない俺も、俺をこんな風にしたこいつも有罪だ。でも、それを心地良いと思ってしまうくらいには、俺は。

「……はは」

 乾いた笑いがこぼれた。するりと無防備な頬を撫でる。「ミョウジ」 名前を呼べば長い睫毛がふるえて、ゆっくりと目が開く。

「れん……?」
「そろそろ起きろよ。マンション着いたぜ」

 ありがとうと浮かべられた笑顔に心臓が音を立てた。
 この気持ちを言葉にしたら、こいつは何と言うだろう。赤くなって、困ったように笑うだろうか。それとも。
 
 あと数日で見納めの、エントランスへ吸い込まれて行く彼女の後ろ姿。もし俺たちがレンタル彼氏と客じゃなくて、学校とか、バイト先とか、仕事仲間とか、とにかく今とは違う出会い方をしていたら、この恋は実っていただろうか。そんなこと、今さら考えたってどうにもならないのに。

「ったく、調子狂うな」

 アクセルを踏む。緩やかに発進した愛車は夜の中に溶け込んでいった。
back