彼と貴方と私と
「ふふ」手もとの封筒を見て何度目になるかわからない笑みが零れる。
ダンスに合わせて揺れる様子が連想される勿忘草色、見慣れた筆跡とサイン。『ナマエさんへ』と書かれた部分にそっと触れたとき、
「どうかしたんですか?」
音もなく近づいてきた彼が後ろから覗き込んできた。
「ひ、HiMERUくん」
びっくりするから気配を消して近づくのはやめてって、いつも言ってるのに。
もう、と頬を膨らませれば「ナマエさんがの反応が可愛らしいので、つい」と笑いながら、HiMERUくんは私の隣に腰掛けた。
「見て、HiMERUくんからお返事来たの」
「そうでしょうね。あなたからファンレターが届きましたし、HiMERUもお返事を書きましたから」
「HiMERUくんがお返事を書いてるのは知っていたけど、やっぱり届くと嬉しいものね」
ファンレターなんて初めて書いた。生まれて初めて出会った好きなアイドル。初めて書いたファンレター。初めて来たお返事。小さい頃にお友達と手紙を交換したことくらいはあるけれど、相手が好きな人だというだけでこんなにも嬉しいなんて。
「HiMERUくんのファンの子たちは幸せだね」
当然です。得意げなHiMERUくんにまた笑みが零れる。
「ねえ、また書いてもいい? ファンレター」
「別に良いですけど、」
「けど?」
取られた手の指先がHiMERUくんの指先と絡まる。
「HiMERUたちは"そういう"関係なのですから、わざわざファンレターに書かなくたって直接言ってくれて良いのですよ」
ぱちぱちと瞬く。「もしかして、嫉妬?」少し面白くなさそうな顔をするHiMERUくんにそう尋ねれば「違います」と即答されてしまった。すっと撫でられた手の甲がくすぐったくて身をよじる。
「直接言えば良いっていうのは、そうなんだけど」
顔を上げればじっとこちらを見つめる瞳と目が合った。続きを促すような甘い蜂蜜色に誘われて口を開く。
「貴方への好きは"そういう"好きだもの。HiMERUくんへの好きを貴方に言うわけにはいかないわ」
私が好きなのは貴方なの。そうよ、公私はちゃんと分けないと。自分の言葉に自分で納得して頷く。今度はHiMERUくんがぱちぱちと瞬きをする番だった。
「HiMERUくん?」
「……たしかに、そうだな」
繋がれているのとは別の方の手がするりと頬を撫でる。近づいてくる甘い熱にゆっくりと目を閉じた。