咲き初めのパ・パ・ドゥ


ただの人数合わせの合コンだ。金城の友人のひとりとして呼ばれたに過ぎない。だから荒北靖友は期待なんて、全くしてなかった。

「茅島 花菜です。よろしくお願いしまーす」

少し間延びした話し方。名前以外に何も分からない自己紹介。顔を見ても特に可愛くもない。
この女、茅島花菜は"そうでもない"を具現化したようなやつだ。
花菜はほかの女の子達に倣って、同じようにメニューを見る。あぁ、私だって生中が飲みたい。こんなカクテルなんてジュースみたいなもの飲みたくない。花菜がそんなことを思っているあいだに、他の女の子たちは定型文のようにスラスラと注文をした。

「あと〜、あ!サラダは欲しいよね」
「うん、シーザーサラダがいいな〜」
「じゃあ、シーザーサラダひとつ。あと、取り皿もください」

ちゃっかりと取り分けるアピールをするあたり、用意周到だと拍手を送りたくなる。花菜は拍手のかわりに、目の前のカクテルに口をつけた。

「お待たせしました、こちらシーザーサラダになりますー。取り皿置いておきますね」
「ありがとうございます〜」
「取り分けるね〜、嫌いな野菜とかある?」
「別にィ」

荒北靖友は不思議だった。花菜が世間一般的に女子がやりたがる行為をしないことが。
---普通、サラダとか頼んだら取り分けるのに必死になんじゃねェの。

「あー、茅島さん」
「荒北くん、であってる?なに?」
「合ってるヨ、サラダのおかわり欲しいんだけど」
「あぁ、はい」

花菜はサラダが入っている皿を荒北靖友の前に差し出した。誰が取り分けるか、そう目が物語っている。

「やだ花菜ってばー、そこは取り分けてあげなよ」
「嫌だよ、自分でしたらいいじゃん」
「も〜」

その女は花菜の肩を少しはたいた。荒北靖友の方に流れるように目を向けて、微笑む。計算され尽くしたその動作に荒北靖友はすげェと小さい声で呟いた。

「荒北くん、お皿貸して」
「いや、自分で取り分けるしいいヨ」
「私の取り分けるついでだから、ね?」

首まで傾げる女に、お礼を言って目をそらす。俺は茅島さんに頼んだんであって、お前には頼んでねーヨ。

「失礼します、ほっけお持ちしました〜」
「え、誰の?」
「私の」
「花菜ったら分けにくいじゃん」
「食べたかったんだろ」
「うん、荒北くんも食べる?半分こする?」
「…いらねェ」

花菜は慣れた手つきで魚を食べていく。誰のことも気にせず、鼻歌交じりでほぐして食べる。
荒北靖友はその姿を、その場にいた誰よりも見ていた。目を奪われていた。

「ん?やっぱり欲しいの?」
「いらねェよ、けど茅島さんキレイに食べんね」

荒北靖友はやらかしたと思う。時すでに遅しだ。
花菜の笑みを見た瞬間、荒北靖友の中に花菜は深くこびりついた。


(2018.04.08)