伸ばせば届く道理は無いから


「おっせーな」

荒北靖友はイライラしていた。
花菜と遊ぶところまで漕ぎついたはいいけれど、肝心の待ち合わせにまだ花菜の姿はない。舌打ちを軽くして、ラインを開く。

『駅で待ち合わせでいいよね?』
『あぁ』
『おっけ!朝バイトだから遅れるかもしれない!!またラインするね〜』

約束の時間は14時、現在の時間は14時55分。
花菜は遅れる可能性を示していたし、それに対してはしょうがない。しかしラインすると言ったんだったら、一言でいいから送ってきてほしい。荒北靖友は花菜が心配でもあった。

「チッ、ちゃんと連絡しろっての」

自販機でベプシを買い、飲みながら待つ。
荒北靖友はイライラしてるし、早く来いと思っている。けれど、もし今花菜が来て平静を装えるかと聞かれれば、それは限りなくNoに近い。
会いたい、けど会いたくない。
こんな気持ちが自分の中に芽生えるなんて荒北靖友は思ってもいなかった。自転車に乗ってる訳でもないのに、こんなに高揚するなんて驚きだ。


∴∵∴∵∴∵


あれからまた1時間が経過した。
荒北靖友はイライラよりも心配が大きくなった。もしかしたら事故にあっているのではないか、もしかしたら……色々なもしもが頭に浮かんでは消えていく。

「ライン、してみっか」

2時間の待ちぼうけはこの際良しとする。きっと言えない何かがあるんだろう。
荒北靖友は深呼吸をひとつして、『なんかあったのか?』と打つ。なんか、まで打った時に花菜から電話がかかってくる。
勢いで拒否しそうになるが、落ち着けと自分に言い聞かせて応答を押す。

「もしも」
『ごめんなさい!!!連絡のひとつもしないでこんな時間になっちゃって』
「…別にいいヨ」
『……本当に、ごめんなさい』
「今どこいんの?オレ車で迎え行くぜ」
『…申し訳ないんだけど、今日は無しにしてもらっても……いいかな?』
「ハァ!?」
『本当に、本当にごめんなさい…』
「いや……大丈夫か?」
『うん、大丈夫』

荒北靖友は怒りではなく、焦っていた。せっかく花菜と関係を持てたと思っていたのに、彼女はするりと避けて行ってしまう。

「オレ来週の土曜空いてるから、今日観るつもりだった映画付き合ってヨ」
『…うん、どこでも付き合う……本当に、ごめんなさい』
「いいよ、じゃあ土曜な」

電話を切って、荒北靖友は深く息を吐き出す。ドタキャンはなかなかにくるものがあるけれど、しょげてる場合ではない。
花菜が理由を話さなかった、言い訳をしなかった。なら荒北靖友がすべき行動は怒ることではなく、追いかけることだろう。


(2018.04.14)