そのゆびさきでぶち抜いて
「……待った?」
「全然待ってないよ」
「ならよかったけどさァ」
土曜日、荒北靖友は実のところ待ち合わせ場所に行くのが嫌だった。花菜が、またいないのではと思ったからだ。
花菜がそこにいるとわかった時、安心からか身体中から余分な力が抜けた。
「んじゃ、行こうか」
「うん」
映画館に向かって歩き始めるけれど、二人の間に会話はない。距離も少し空いていて、気まずさが流れている。
「先週、本当にごめんなさい」
「いいヨ」
「荒北くんは、優しいんだね」
「…んなことねーヨ」
「あるよ〜、服装はちょっとイマイチだけど」
「ウッセ!!」
花菜の本音か冗談か分からない言葉に、緊張が少しずつほぐれていく。荒北靖友は楽しい、とはまだ思っていないけれど悪くないと感じた。
∴∵∴∵∴∵
「荒北くんはどういう映画が好きなの?アクションとか好きそうだけど」
「アクション好きだぜ」
「洋画とかも観る?」
「たまァにな」
「あはは、意外過ぎて笑える」
「あァ!?」
「…荒北くんって本当にガラ悪いよね〜、モテないでしょ?」
「ウッセ!!」
チケット購入に並んでる間に、荒北靖友と花菜の距離はぐっと縮まった。他愛のない話をする。
「荒北くんってロードバイクやってるんだよね?」
「…何で知ってんの?」
「合コン前にね、隣の女の子が言ってた。あの子金城くんのことずっと好きだったから」
「ふーん」
「荒北くんにもいい女アピールしといたって言ってたよ」
荒北靖友はこの前のことを思い出す。そういえば、サラダを取り分けてくれた女がすごいと思った記憶がある。あれはオレにではなく金城に対しての遠回りなアピールだったらしい。
「あ、ごめん嘘ついた」
「はァ?」
花菜はごめんごめんと軽く謝る。荒北靖友は、その嘘がなにか全くわからなかった。その女が実はオレ狙いってことか、ちげェだろオレ。一人で自分にツッコミをするくらいには、嘘をつく箇所が思いつかない。
「実は高校時代から知ってたよ、私」
「ロードやってることかヨ?」
「うん、インターハイも見に行ったし」
「マジ?」
「まじ」
「何で、嘘言ったんだヨ」
別に、花菜は嘘をつく理由がないではないか。荒北靖友はそう思う。高校時代から知ってて、インターハイも見に来たことがある。その事を言わずに、合コン前に知ったと嘘をつくのは意味がわからない。
「…だって、恥ずかしいじゃない」
「何がだヨ」
荒北靖友は心臓あたりが痛くなった。もしかして、オレのこと知ってて気になってたとかじゃねーの。期待が胸の中でどんどん膨らんでいく。
「私ね、巻島くんのこと好きなの」
花菜は、心底恥ずかしそうに…けれど、とても嬉しそうに荒北靖友を傷つけた。
(2018.04.15)