なんだかいつもせつないだけだ


「金城ォ、茅島さん好きなヤツいた」
「…は?」

金城は、耳を疑った。
『茅島さんと出かけんだ』と話していた金曜日。すごく嬉しそうにしてたのが今でも昨日のように思い出せる。

「本当なのか?」
「本人から言われたんだヨ」
「…その、なんだ……彼氏ではないんだろ?」
「あァ」

荒北靖友はあの日の花菜の顔を思い浮かべる。好きな人がいる、それを言うだけであんなに嬉しそうな顔をするなんて…荒北靖友は思ってもいなかった。
ため息をひとつつく。

「そういえばさァ、合コンのときに茅島さんの隣に座ってた女いたじゃナァイ?」
「吉野さん、だな」
「茅島さんがソイツとオレ、金城でメシ行こうって」
「…俺と吉野さんはいらなくないか?」
「オレだって2人で行きてェけど、茅島さんがそう言ってんのにヤダって言う理由ねェだろ」
「荒北がいいなら、俺はいいが…」

ありえねェ、荒北靖友は花菜から4人でご飯に行こうと言われた時にそう口にしそうになった。オレが気になってんのは花菜だと、なぜ気づかない。
けれどもっと気に食わないのは自分自身だ。ニコニコ笑いながら、「お願い!」と頼まれてしょうがないと思ってしまった。また、一緒にいられるのが嬉しいと、思ってしまった。


∴∵∴∵∴∵


『もしもし、荒北くん?金城くんのこと誘ってくれた??』

荒北靖友と花菜は、毎日ラインをする仲になった。しかも花菜からはたまに電話までかかってくる。こんなに思わせぶりなことをしてくるのに、好きな人がいるなんて荒北靖友は未だに信じられない。

「誘っといたヨ」
『OKって?』
「邪魔じゃなければって」
『邪魔なわけないのに〜、ご飯会のメインミッションは友紀と金城くんがいい感じになることだから』
「茅島さん張り切ってんね」

花菜の声はいつもより弾んでいて、本当に嬉しそうだ。

『うん!だってさ、友紀ってば本当に金城くんのこと好きだったんだもん。嬉しいに決まってるじゃん!一歩前進だよ』
「…フーン」

荒北靖友は意外だと思った。花菜はどちらかと言うとドライで、人の恋路に首をつっこむようなタイプではない。ましてや、協力なんて絶対にしないと思っていた。
それほど、吉野さんと仲がいいのか。それとも、と荒北靖友はマイナスな方へ考えてしまう。花菜の口から聞いた訳でもないのに暗くなってしまうなんてどうしようもない。

『しかもさ、もし2人が付き合ったりしたら…巻島くんと私も何かあるかもしれないでしょ?』

荒北靖友は、小さな声で返事をするしかできなかった。


(2018.04.16)