冷やし飴はいかが


ご飯会は、滞りなく開催された。この店は花菜と友紀がよく行くお店らしく、二人で慣れたように注文してくれる。

「荒北くんは、何か食べたいのない?」
「別にィ、金城はねェの?」
「俺も吉野さんと茅島さんが頼んでくれていたので大丈夫だ」
「き、金城くんは好きな食べ物なに?」

友紀と話す金城を荒北靖友は横目で見る。友紀の顔は、あなたのことが好きですと書いてある程わかりやすい。あの時遠回しのアピールをしてきた女とは思えない。金城も満更でもないのか、二人の会話は結構盛り上がっている。
花菜と荒北靖友もいつも通りの調子で話す。荒北靖友は花菜が生中を飲んでることが少し嬉しかった。合コンの時はカクテルで、今は生中。あの時よりも距離が縮まった気がする。

「荒北くん、明日は暇?」
「夜はバイト」
「ふーん」
「何だヨ」
「ううん、あ!私それ食べたい!荒北くんの分ちょうだい」
「ヤダ」
「いいからいいから」

花菜は荒北靖友にまた笑顔でちょうだいと言う。黙って花菜の皿にのせると、嬉しそうにありがとうと花菜はまた笑顔を見せた。


∴∵∴∵∴∵


「じゃあ荒北くん、花菜のことよろしくお願いします」
「任せてヨ」
「じゃあな荒北」
「おう」

帰り際、荒北靖友は花菜を送ることになった。花菜はコンビニまで人数分の水を買いに行っている。

「あのさ、荒北くん…私がこんな事言うのもなんだけど……」

友紀は言うのを迷っている素振りを見せる。荒北は心当たりがなさすぎて心の中で焦っていた。
出来れば好きな子の友達に変な印象を持たれたくない。

「あ、変なことじゃないんだけど……花菜のこと、好き…なんだよね?」
「あ、あァ」
「私は荒北くんのこと、応援してるから」
「俺もだぞ」

荒北靖友は少し照れたように首に手を回す。金城からは応援すると言われていたけれど、花菜の友達に応援されることがこんなに嬉しいとは思っていなかった。

「おーーーい、買ってきたよー」

荒北靖友が友紀と金城に何と言えばいいか迷っていたら、花菜がコンビニの袋を2つ持って戻ってくる。右手の袋を友紀に渡す。

「はい、これ金城くんと友紀の分ね。お金はいらないから、じゃあ私は荒北くんと帰るね!」

花菜は早口でまくしたて、荒北靖友の手を掴む。

「じゃ、行こっか荒北くん」

荒北靖友に口を挟むのを許さないように、花菜は強く手を引いて歩き出す。友紀と金城の姿が見えなくなるとやっとその歩みを遅める。

「はー、あの2人なにか進展あればいいけど」
「そうだネ」
「荒北くん早速行こっか」
「はいはい、駅まで送るから」
「何言ってんの、私の家だよ」
「はいはい、私の家って何でだヨ」
「飲み直そうよ」
「茅島さん分かってる?オレ女の子じゃないヨ」
「荒北くんは大丈夫だよ」

その信頼が、嬉しくもあり悲しくもある。荒北靖友は諦めたように花菜が手を引く方向に歩いて行く。


(2018.04.18)