コペルニクスの夜べ


「ただいまー」
「…お邪魔します」
「スリッパこれね、はいどうぞ」

花菜は手際よく玄関の横にある棚から、客用のスリッパを出す。荒北靖友が履いたのを確認すると、向かっている途中に買ったチューハイを冷蔵庫に入れに行く。

「おつまみは机の上でいい?」
「うん!あ、袋もらうね」
「いいヨ、ごみ箱どこにあんの」
「集めてるの!ちょーだい」

荒北靖友は袋を奪い台所に行った花菜の後ろ姿を眺める。
この前、合コンの男メンバーでの飲み会があった。話題はもっぱら合コンの話だ。あの子が1位だった、いや俺はあの子というように色んな女の子の名前が飛び交う。荒北靖友は友紀と花菜以外の名前は覚えていなかったけれど。
「茅島さんだっけ?あの子はないわ」「それな」
花菜はこの男達の中では最下位だった。それを嬉しいと荒北靖友は思えない。てかランク付けなんかすんなヨと、キレて帰ってしまった。
みんな知らないから最下位にする。確かに気は利かない、優しくもない、わがままを言う。けれど、スーパーの袋を集めている。そこが、荒北靖友にとってはツボでしかない。

「荒北くんお待たせ〜、この前買ってたチータラもあるよ!」
「いいじゃナァイ」
「でしょ、じゃあ……二次会開催します!カンパーイ」
「カンパイ」

花菜はお店でも結構飲んでいた。荒北靖友が思っているよりも酒に強いらしい。
嬉しそうにチータラを食べる花菜が、どうしようもなく可愛いと思う。

「茅島さんは」
「それそれ、もうそんなに他人行儀じゃなくてよくない?ほら、花菜って呼んでよ」
「ハァ!?いきなり過ぎんヨ」
「え、いきなりなの?私結構前から思ってたんだけど、仲良しじゃないの〜靖友〜〜」
「ちょおまっ、酔ってんだろ!」
「酔ってないよ、失礼だな!!早く呼んでよ!!!」
「はいはい、花菜な花菜」

花菜は荒北靖友が自分の名前を呼んだことに満足したのか、嬉しそうに笑う。

「私ね、男の子の友達って初めてで…靖友とは仲良くしたいな」

酔ってるからか、花菜の目はとろんとしている。荒北靖友は理性を保つのに必死だった。肩を掴んで抱きしめそうになる己の手を必死に止める。

「オ、オレだってそうだヨ」
「仲間だねー私たち」
「そうだネ」
「うふふふふー」
「花菜はいいから化粧とって寝ろ」

荒北靖友は花菜の手を持って洗面所に連れていく。花菜はヤダヤダと反抗してくるけれど、女の力での反抗なんて荒北靖友には何てことない。

「ちゃんといてやっから」
「…ほんと?」
「オレ嘘言わねーし」
「じゃあ、寝る」

花菜は荒北靖友の手を握り、洗面所の下の棚からメイク落としのシートを取り出す。その顔は安心で緩んでいた。


(2018.04.20)