君の鼓動を喰らう


ユーリのしなやかな指が私の首筋を這う。言葉がでない。恐ろしくてでないのか、美しすぎてでないのか、もう私には判断できなくなっていた。


「ねぇ、名前……君は誰のものだい?」


きっとユーリのものだと答えるのが正解だし、私自身そう言いたいのだけれど、喉が渇いて上手くしゃべれない。ユーリはそんな状態に気づいているのかいないのか、変わらぬ微笑を浮かべている。

ユーリは怒っている。
私が素良とスタンダート次元に行き、違う次元のものと仲良くしたから。
特に、遊矢。私はユーリと似ているけれど、優しく明るい遊矢の側にいるのが好きだった。ユーリから貰えない、純粋な心を貰えてるようで嬉しかったんだ。

でも、そんなことをユーリが許すはずない。
遊矢とユーリ、似ているけれども違う。
全然違う。

遊矢は私を閉じ込めたりしない。
私が苦しむようなことはしない。


「名前、君はイイコだよ。僕の言うことは聞けるね?」


優しくも重いその言葉に私は必死に頷いた。
まだ、なにも痛いことはされていないけれど、されない確証もないし、むしろ下手したら傷つけられるだろう。
自分の身を守るためには、多少のことは平気。耐えられるはず。


「本当は君が素良と行動するのも嫌だったんだ。でもプロフェッサーの命だから仕方なく見送った。……でも、もう君は素良と一緒にいる必要はない」


ユーリは私の唇を指でなぞり、楽しそうに口角を上げた。悪魔の笑みだ。私は、この悪魔になにをされてしまうのだろう。また陽の下で笑えるだろうか。
この部屋はアカデミアの地下にあり、もちろん太陽の日は注がない。嫌な湿気に包まれ、埃とカビの臭いがする。息苦しい。


「僕から言っておいたよ、プロフェッサーに。君は他次元と関わり、アカデミアの戦士としての誇りを忘れたと、ね」

「わた、しは……誇りを忘れてなど…!!」


聞き捨てならないことを言われ、思わず声を張り上げる。するとユーリは冷たい瞳で私を睨み付けてきた。ヒュッ と喉が鳴る。怖い。背筋が凍ってしまうかのようだ。


「そうだね。君は戦士としての誇りを忘れてはいない」

「なら、なぜ……?」


なぜって と、ユーリは何がおかしいのか喉を鳴らした。私の疑問は的を射ない、不可思議なものだろうか。そんなはずはない。疑問に思うのは当たり前のことだ。


「プロフェッサーにそう言えば、君は戦線から外され、他次元と関わることはないだろう?」

「そんな…!!」


それだけじゃないよ? ユーリは私の目の前にしゃがみこみ、頬を撫でる。冷たい指が恐ろしい。


「アカデミアの誇りを忘れたものは再教育が必要だからね。プロフェッサーに僕が教育係をやると進言して、全面的に任されている」

「それって……」

「君は賢いね」


ぎらりと瞬いたユーリの眼は、私の知るそれではない。彼はいつから変わってしまったの。昔は一緒に笑えたじゃない。


「プロフェッサーから直々に仰せつかったんだ。君を独占する権利を」


ユーリの唇が私の唇を食む。
こんな、なんの思いも通じないものキスじゃない。
こんなの。こんなもの。

私の頬を涙が伝う。


「もちろん君を再教育するよ。でも、戦士にはしない。君をまた手放すわけにはいかないからね」


ユーリの手が、するりと太ももを撫でる。
再教育。そうか、ユーリが言う再教育って、こういうことなんだ。


「君を僕のモノ。僕だけのモノにしてあげる」


もう、なす術はない。
私じゃユーリを止められない。

私が愚かだったんだ。
ユーリの恋慕を受け、遊矢に憧れた私が愚者だった。

逃れられるはずはないのに。