「デニスの愛だとか、好きだとかは、胡散臭くて信じる気はないの」
私の言葉にデニスは肩をすくめた。でも笑っている。
裏の読めない、真意の見えない笑みが恐ろしい。
だから私はデニスが苦手なのだ。
不気味で、不思議で。理解が出来なくて、近寄りがたい。
ではなぜ私はこうして彼と会話をしているのだろう。
私自身、疑問で仕方ない。
「だからね、だから、デニス。私に愛だとか、好きだとかを言うのはやめてくれない?」
「それはどうして。信じなくてもいいさ、それでもダメなのかい?」
「ダメ。というか、嫌なの。心がかき回されるような、かきむしられるような、そんな、気分になる」
「Oh! それこそ恋だよ!」
デニスのことだからそう言うと思っていた。
確かに、恋に見えるかもしれない。でもね、それはあり得ないのよ。
相手がデニスな時点であり得ない。
私がデニスを好き? ないわ。ない。絶対に、ない。
ない。
これは、恋ではない。
だから、デニスに触れることに躊躇いはない。
おもむろにデニスの指に触れる。彼はなんでもないように口角を上げた。
ああ、全てお見通し、みたいな、その顔が嫌い。
私も知らない私のことを、いっぱい知ってそう。
細くてしなやかな指を一本一本、撫でるように触る。私より低い体温。血の巡りを証明する血色の良さ。
生きている。なぜこんなにも煩わしい。
彼が死んでしまったら、きっと私はこの感情を形にできるのだろう。
だって、告げる相手がいないのだから。何も気にせず、ただただ「気付くのが遅すぎた」と、在り来たりな言葉を吐いて後悔すればいい。
「ボクも名前に触れたい」
「ダメ」
「キミは触れていても?」
「そう。自己中心的だと笑っていただいても構わないわ」
「別に。笑わないよ」
そう言って彼は笑う。笑わないって言ったくせに。嘘つきね。
本当に、デニスは嘘つき。
私のこと、好きじゃないくせに、好きなんて言わないで。
「名前」
「なに」
「愛しているよ」
「そう。嘘ね」
「また、そんなことを言うのかい?」
「私の台詞を取らないで。愛しているなんて、また、そんなことを言うのね?」
「言うさ」
キミが信じてくれるまで、と。
好きになってくれるまで、と。
じゃあ、もう遅い。
気付いてないのも信じてないのも全部デニスだ。
見ないふりしてるくせに。
私はこの思いに向き合わないから、デニスが見付けて、無理矢理押し付けてよ。そしたら渋々でも頷くから。渋々に見せて、本気で頷くから。
いっそのこと、嫌いになれたらよかったのに。
「デニス」
「なんだい?」
「…………きらい」
「そう。それは仕方の無いことだね」
デニスの言う通り。
これはもう、仕方の無いことだ。
嘘つきで天の邪鬼なのは私の方。
私と彼は似ている。
だからきらいなの。
きらい。そう。きらいだ。
本当に「嫌い」には、なれないよ。