ベクターってやつはすごく性格が悪くて、部下の私をこきつかって、他の七皇を仲間だと思っていない。
でも、時々その裏に優しさが隠れているから、それを見つけると嬉しくなってしまう。
もう側から離れようって思った時に見つけた優しさは、私を引き止めるには十分過ぎるぐらいで、私は結局ベクターの側にいてしまうのである。
そんなベクターが七皇の力を吸収した時、何かがおかしいと思った。
いつもなら「また最悪なことをやってる」って思うところなんだけど、その時はどこか違った。
まるで、寂しさを埋めているかのように見えたのかもしれない。
ベクター自身、無意識の内に孤独を抱えていたのではないか。七皇の中でも唯一自分だけが異質だと悟り、みんなを吸収することで一緒になりたかったんじゃないだろうか。
事実は、きっと本人すら知らないだろうけど、私はそう信じたい。
彼の前世はとても悲しいものだった。平和の象徴だった彼は、たった一つの歯車の狂いで独裁者になったのだという。苦しい苦しい前世だ。
それを容易に許容してしまった彼が信じられない。いや、本当は泣いているはずなんだ。歓喜と悲嘆で。
自分が遊馬と同じ真っ当な人間だったということに対する歓喜。 自分が繰り返した罪への悲嘆。
彼は泣いている。声を出さないように、顔に出さないように泣いている。私には分かった。ベクターの側に使えていたからこそ、見分けがついた。
そして、時は来た。
ベクターはドンサウザントに飲み込まれ、消滅してしまった。
私一人を置いて、消えてなくなってしまった。跡形も何もない。手持ち無沙汰にバリアン世界を見渡すが、ベクターがここにいた、ここで生きていた証がない。
あれ?あんなしぶといベクターが? そんなバカな。
最期ににこりと笑って消えていった。あの時、彼は救われたのか?
私は何もしていない。私も一緒に死ぬと決めていたのに。彼が消える前に口パクで「くるな」ってそう言ったから、私の足はピクリとも動いてくれなかったのだ。動けなかった。いつもなら簡単にしてのける命令違反を、今回だけはどうにも出来なくて。
私は消えてしまうベクターの笑みを脳内に焼き付けて、瞼を下ろした。
なんで笑ったの?呆れたから?それとも、まだ自分が人間である証拠が出来たから?一人ぼっちじゃなくなったから?
全部当てはまりそうで困った。問答無用で緩む涙腺にも困った。
ああ、きっと私はベクターが大切だったんだ。無理矢理にこじつけて嫌いでいようとしただけで、本当は側にいたかったんだ。
やっと気付いた。自分の思いに気付けた。これでベクターに伝えられるよ。私の気持ちを伝えられるよ。大切なんだって。嫌じゃないよ、側にいたいよって。
でも、ほら、もう遅いんだ。
どれだけ足掻いても、逃避しようとしても目は背けられなくて、私は小さく「ああ」と漏らした。
ぽっかりと空いた穴。これはきっと、私には埋められない。もう誰にも埋められない。
ベクターが持っていってしまったから。私を持っていけばよかったのに、私の一部だけを抱えていってしまった。もう、戻らないんだ。「ベクター」という私の一部は。
全ては虚空に溶けて、消えていった。