「好きだよ」
私が彼に愛を告げると、彼は瞳から光を消す。ミザエルくんは人間が嫌いだから。
高尚なバリアンであると、バリアンであることに誇りを持っているミザエルくん。そんな彼は人間を下等生物だと見下している傾向にある。見下して、嫌悪している。
私はミザエルくんが好きだけれど、きっと人間だからこの恋は成就しないだろう。覚悟の上だ。私はいつまでも一方通行で彼を好きでいるから。でも、人間であることを後悔したのは初めてだった。
冷えた双眸の彼を見上げる。思わず身震いするほどに綺麗だ。ミザエルくんはかっこいいじゃなくて、綺麗なんだ。
それは女性的でも男性的でもない美しさ。私はそこに惹かれた。そして気高い内面に惚れた。
「……私は行くぞ」
長い長い沈黙を破る彼の声。私はその内容がいまいち掴めずに、首を傾げる。すると、彼が煩わしそうに口を開いてくれた。
「私はバリアン世界に帰る。しばらくここに来ることはない」
つまりそれは、お別れだった。
身体の中を幾重にも衝撃が走る。それの所為で私は何も言えなくなってしまった。
何か言わなければ。言わなければ。と焦る度に思考が絡まる。
考えをまとめようとするが、混乱が全てを蹴散らしていく。正常な思考は失われていた。
「キス、して」
一番最初の言葉がそれだ。私は自分の発言に困惑する。
それはして欲しいけど。こんなときにされるキスなんて、ミザエルくんじゃなくても冷たいキスだろうに。私は気が狂ったのかもしれない。
ああ、でももういいや。
どうせしばらく……もしかしたらこれから永遠に会えなくなるかもしれないのだから。
だから、もう…。
貰える慈悲なら貰わなければ。
「分かった」
ミザエルくんが頷き、顔を寄せてくる。私は一瞬たじろぐ。だって、本当にいいとは思わなかったから。私はゆっくり瞼を閉じた。
瞬間だけ唇が重なる。彼の唇は予想以上に冷たかった。短いキスでも分かる。分かるほど冷えきっていたのだ。
最後に彼を視界に納めようと瞼を持ち上げる。しかし、そこには光の粒が点々と漂っているだけだった。ミザエルくんの姿がない。姿がないというか、ミザエルくんが行ってしまったんだ。
それは余りにも唐突で、刹那のお別れだった。
ああ、ミザエルくんのためならば、こんな人間界も滅びればいいのに。そしたら私もバリアンになって、ミザエルくんと対等になって、恋をしたい。