HRが終わり、1限目の予鈴がなった頃、教室の扉がガラガラと開く。そこにいたのは次の教科の先生ではなくクラスメイトの神代凌牙だった。
「凌牙、おはよー」
「おぉ」
彼は私の挨拶に素っ気なく返して前の席に座る。
神代凌牙はこの学校の中でも札付きの不良だ。授業にでないなんて当然で、今日みたいにギリギリに来れば全然いい方。気が乗らなければ屋上で寝ていたりもする。だけれど、成績優秀、運動神経抜群、おまけに容姿端麗と、少女漫画のヒーローみたいな奴である。
「凌牙、数学の宿題やった?」
「やったが……。はぁ、またか」
凌牙はこちらを振り向いてため息を吐く。察しが良くて大変ありがたい。彼は数学のノートを取り出すと、無言で渡してくれた。
「さんきゅ!まじ助かる!!」
「たまには一人でやれよ」
「一人じゃわかんないの!!」
「はぁ…」
様々な教科の中でずば抜けて数学が苦手な私は、悪い癖とは思いながらいつも宿題を写させてもらっている。凌牙は呆れながらも毎回ノートを見せてくれるし、何より彼のノートは綺麗に纏まっており見やすい、到底不良とは思えないものなのだ。本鈴が鳴る前に、と慌ててノートを書き写す。途中式まで丁寧な解答。本当に助かる。
「凌牙ってさぁ、こういうところ几帳面だよね」
「なにが言いたい」
「いや、宿題とかちゃんとやってくるしさぁ」
「ふん、やらずに目をつけられるのはだるいだろ。成績さえ保っていればサボってもなにも言われないしな」
「なるほど…」
それにしても偉いと思う。中学の頃の私なんて、やんちゃしてた上に宿題やらないし成績悪かったからめちゃくちゃ目をつけられてたし…やっぱり本物は違うなぁ…。…まぁ、数学に関しては現在も宿題やってないんだけれど。
「すごいね、凌牙」
「……」
心の底から出た言葉に凌牙は何も言わず前を向いてしまった。優しいのか冷たいのか…そんなことを思いながら最後の問題を写しきる。なんとか休み時間中に終わった。
「ありがとう凌牙!助かったぁ〜」
「そうかよ。……お前、俺がいなかったらどうすんだ?」
「え?なにが?」
「宿題だよ」
「うーん……諦める!」
「……呆れてものも言えねぇな」
「でも、今んところは毎回凌牙が写させてくれてるから、諦めたことないけどねぇ」
「……ふん」
凌牙は私が差し出したノートを奪うように取って、引き出しにしまう。そして授業の準備もしないで席を立ってしまった。
「あれ、凌牙?先生きちゃうよ?」
「サボる」
「えー!せっかくきたのに」
「いいんだよ。もう役目は終わったからな」
凌牙は片手をひらりと上げて教室を出て行ってしまった。今日も私の前の席は空席か…。
それにしても……。
「役目って、なんだ?」