「と、言うわけなんだけど零児」
零児は手にしていた資料を机に置くとこちらに視線を送ってくる。
どうしたらいい?と再び問いかけると彼はため息を吐いた。そんなに露骨な反応しなくてもいいじゃない。ひどい人だわ。
母に恋人を紹介すると言ってしまった手前やはりちゃんと作らなければ、嘘でも、ニセモノでも短期間限定でも。
そう思って零児に話をしてみたのだけれど、やはり間違っていたのだろうか。私、零児の意外と優しいところ結構好きなのに。
「自業自得だろう。他人に頼ることではないな」
「それはそうだけれども」
「特に俺には関係ない」
「それもそうなるけども」
「……それで?俺に何を求める」
「流石零児、話が早い」
散々愚痴を溢しながらも零児は私の話に乗ってくれる。だから好きよ、零児。
「俺に被害がなければいい」
「無いわ。ただ、私の偽恋人候補を探してほしいだけで」
「なるほどな」
零児は一瞬だけ視線をそらし、考える素振りをするが直ぐ様こちらに視線を戻す。どうやらもう考えついたらしい。
「それならば月影をつれていけばいい」
「月影?……って、月影さんよね?」
「他に誰かいるか?」
「そうね、いないわ」
月影さんと言えば零児の忍者だ。確か風魔か何かの忍者で、兄に日影さんを持つ忍者デュエリスト。
忍者………確かに、偽装や工作は得意そうだ。
しかし、私自身月影さんを詳しく知らない。一対一で話したことすらないような気がする。
「零児、私は月影さんと仲良くできるかしら?」
「仲良く?どういうつもりだ?仲良くする必要などないだろう。偽装なのだから」
「ああ」
そうだ。そうじゃないか。零児は間違っていない。
偽装なのだ。仲良くする必要などない。
なんだ。ならば簡単なことだ。ほんの少し演技をすればいい。月影さんは忍者なのだから、演技は得意中の得意だろう。
「助かったわ。ありがとう、零児」
「月影にはこちらで話をしておく。明日また来い、その時に会わせてやろう」
「ええ、分かったわ。執務中に邪魔したわね」
私は早々に仕事に戻った零児に感謝を告げて部屋を出る。
あんまりにもすんなりと話が進みすぎているからか、それともこれから起こる何かを暗示しているからか、胸の隅のモヤモヤが晴れない。
今は頑なに前者だと信じておこう。
無駄なことで悩みたくはない。
さて、月影さんのことは詳しく知らないわけだが、というよりそもそも忍者と言う人種と絡んだことがないんだけど、いったいどんな人なのだろうか。
今はそこに楽しみを見いだしていよう。