忍者と私

「ほぼはじめましてですね、月影さん。私は小花衣櫻子、この度はこうしてしっかりと対面できて光栄ですわ」
「いやはや、今日までしっかりと挨拶をしておらず申し訳ない。拙者、月影と申す者。小花衣殿の話は零児殿から予々伺ってござった」
「え、いや、そんなにかしこまらずとも……」

零児との約束通り翌日にレオ・コーポレーションに訪れた私は顔パスで彼の執務室まで通され、噂の月影さんと対面した。
顔の半分が隠れているからよく分からないが、目元は好きな方だ。この人、こんな顔してたんだ。

じーっとよく見つめると月影さんは少しだけ笑った。
意外。この人、笑うんだ。……なんて、失礼だろうか。いや、失礼だな。

「すいません、じろじろ見てしまって」
「気になさらず」
「そうですか?では、少しだけ」

不快感を与えない程度の柔らかい視線を送る。
服装は確かに忍者だ。ぴっちりと身体に引っ付いているからよくラインが見える。細い。とても細い。なのにすごい筋肉量だ。忍者、侮れない。
髪は紺色。高くで一つに結ってある。髪だけではなく全体的に青い。確か日影さんは赤色だったっけ。

青。好きな色だ。
すごく落ち着いた、厳しくも優しさを兼ね備えた、そんな色だから。

「すいません、ありがとうございます」
「いえ、このような者で良ければいくらでも。………さて、今回何やら拙者に依頼があると伺ってござるのだが」
「ああ、はい。内容は零児から聞いていますか?」
「零児殿から小花衣殿に直接聞くようにと仰せ使った故、聞いておりませぬ」
「そうですか、では私の口から」

零児め、それぐらい言っておいてくれてもいいじゃないか。
ほぼ初対面の人にこんなことを直接伝えるだなんて、勇気以外の何ものでもない。
とは言っても、この場を用意してくれただけで十分感謝に当たるのだが。
流石に零児に求めすぎよね。あいつは頼むと昔からなんだかんだでなんでもしてくれたから、変なところで頼る癖がついてしまったわ。

これは私の自業自得から生まれた事件なんだから、零児に頼りすぎるのはいけないわよね。

私は数回深呼吸を繰り返し、緊張を和らがせる。
繰り返しの果てに落ち着いたため、月影さんを見据える。

今なら言える。言うしかない。


「緊急の用件で申し訳ないのですが、私と付き合ってはいただけませんか?」


私の一言に月影さんは両目を見開く。口元が少しだけ震えたように見えた。

「………そ、れは、どのような………?」
「だから、私と恋人になっていただけないかと」
「こい、びと」
「ええ」
「と、いきなり申されましても、拙者は忍者であるが故にそのような浮わついたモノは……」
「ああ、すいません」

これは言葉が足りなかったようだ。
ほぼ初対面でいきなり告白したみたいになってしまった。それはとても怖いと思われただろう。流石に忍者であろうと、感情は残っているだろうから。

「言い方が悪かったですね。恋人と言ってもニセモノです」
「ニセモノ?」
「はい、月影さんには私の偽装婚約者になってほしいんです」

私の依頼に月影さんは三白眼の眼を細める。

さて、はじめよう。
本気の偽装恋愛を。