偽装だけれど

「さて、月影さん。早速ですけれどこの服に着替えてくださいますか?」

私は手にした零児の服を月影さんにつき出す。彼と零児に体格差は余りないから、零児の服ならなんなく着れるだろう。

「おお………いやはや……なんと………」

月影さんは少したじろいだ様子で服を受け取ってくださる。

零児の服は比較的スマートなものが多い。普段着ている服もそうだし、それ以外の物もそう。
あと普段着は万年赤マフラーやらNOT靴下やらセンスどうなってるの?と問いただしたくなるものだが、それ以外は案外悪くないセンスなのだ。そっちを着たらいいのにといつも思っている。

と、まぁ、それは置いておいて。

月影さんは身体つきがスラッとしていられるから零児の服はよく似合うだろう。
細身のジーンズと七分丈のカットソーにカーディガンを持ってきた。靴は適当に革靴辺りをかっさらってきたが、大丈夫だろう。
ただ……靴下だけはどうしても見つからなかった。

「では、私は部屋を出ているので着替えたら知らせてください」

私はそれだけを言い残し部屋を出た。
常に忍装束をまとっている人が普通の服を着るとどうなるのか、楽しみだ。

部屋の前で数分待っていると、内側からくぐもった声が聞こえた。どうやら着替え終わったらしい。

「月影さん、終わったんですね?」
「あ、ああ」
「では入りますよ」
「承知した……」

小さな声で聞こえる返事にどこか違和感を抱きながらも私は部屋に足を踏み入れる。
そして、素直に驚いた。

「え、あ………」
「ど、どうでござろうか」

月影さんは自信が無さそうにうつ向く。本当に経験がないのだろう。

そんなバカな。

「拙者、このような服ははじめて故、間違いがあったら指摘をしてほしいのでござるが……」
「…………」
「小花衣、殿?」
「あ、いえ、その……」

正直に言って、似合いすぎていて困る。ぴっちりスッキリとした優等生ファッション…。それが高く結われた紺の髪と恐るべきほどマッチしているのだ。

これから服を買いにいくと言うのに、既に結論が出てしまったかのような錯覚。
どうしてもこれ以上が見付からないような気がする……。

「月影さん……買い物は無しです」
「え………、そ、それはどういった」

どうせ零児だってこの服は着ないんだ。ならば、貰ってしまっても罰は当たらないはず。後で許可はとるし。

「月影さんはその服を私服ということにしましょう」
「い、いやしかし!これは零児殿の服では!」
「もちろん許可は貰いますよ。……でも、私は思うんです、もうその服でいいではないか、と」

「それは…」と、いつも冷静な月影さんの眼が揺れた。それだけで少しだけ特別になれた気がする。

「それは、拙者の着こなしに呆れたからでござろうか…?」

月影さんのネガティブな言葉を「まさか!」と笑い飛ばす。そんなわけない。月影さんの着こなしは完璧だ。
完璧すぎて直視できないぐらいには。

「今の月影さんは十分すぎるくらいに素敵ですよ………!」

ああ、指が震える。
なんてかっこいいのだろうか。
こんな方が偽装とはいえ、婚約者になるなんて、私は幸福者だ。