さきほどから俺の手元を熱心に見つめてくる彼女にはなんの心変わりがあったのだろう。
相変わらず今日もツン全開だった桃胡は、俺がデッキの整理を始めた瞬間にこの調子だ。慣れない視線がむず痒い。
「なに手を止めてるのよ」
カードを触る手を止めていたら一喝された。俺は短く謝り整理を再開させる。
というか、なんで俺が謝っているんだ。
そもそもここは俺の部屋。桃胡は親の言葉に従いここに来たらしい。実は互いの親にはこんな微妙な仲だとはバレていない。むしろ、今日みたいに互いの家に訪れることは日常茶飯事だから、仲がいいものだと思われていることだろう。
「桃胡、カードに興味があるのか?」
流石に好奇の視線に耐えられなくなり顔を上げると、不機嫌そうな桃胡の瞳とぶつかった。なんて威圧感だ。俺のフィアンセ様は怖いな……。
「別に。興味なんてないけれど」
「そ、そうか。変なことを聞いて悪かったな」
これ以上あの目に見つめられるのが恐ろしく、俺は早々に話を切り上げ整理を続けた。
しかし、いっこうに好奇の視線が外れる気配はない。
桃胡にバレないようにちらりと彼女を盗み見れば、少しだけワクワクしているような表情が見てとれる。
思わず息を飲んだ。
こんな純粋な表情、久しぶりに見たぞ。幼い頃の桃胡の顔だ。俺が好きになって、守りたいと思った顔だ。
「桃胡」
「なっ……」
気付いたら俺は彼女に手を伸ばし、その頬に触れていた。暖かい。柔らかい。少しばかり上気したように見受けられるのは夢か幻か。それとも……。
「気色悪いっ!!!」
「ぐふっ!」
愛らしい桃胡に見入っていると、いつの間にかいつもの仏頂面に戻っていた彼女に腹部を殴られる。
なかなかの拳……。鳩尾入った……。
今確認しても彼女の頬は上気などしていない。やはりさっきのは夢幻か……。
いやいや。あれが現実のものである方がおかしいんだから落ち込むものでもない。さっきの俺はどこかがおかしかったのだろう。
「沢渡くん、早くデッキ整理続けたら?」
「はいはい、仰せのままに」
ムカつく、と呟いた声を無視し、俺は整理を始めた。相変わらず桃胡は俺の手元を見つめてくる。
それからはそちらを見ることはなく、ただ静かに時だけが過ぎた。