振り払えない警鐘
▼土方陣営との接触if▼
※時系列がめちゃくちゃの上、誰にも配慮してません。
めちゃくちゃ捏造してます…
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旅順を続けるには路銀が必要となってくる。公には働くことができないため、余り目立つことは避けたいところではあるが。
私はアシㇼパちゃんのフチに刺繍を教えてもらった経験から刺繍を施した羽織や小物、それとアクセサリー類を売りに街へと足を運んでいた。
百ちゃんに黙って一人で来たから、帰ったら怒られるだろうなぁ……。でも、百ちゃんに甘えてばかりではいけないのだ。私も路銀を稼がなければ。
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割りと稼げたこともあって、ほくほくした気分だった。お土産に串団子でも買って帰ろうと、皆の分も購入して店を出た時、道を聞くフリをした……所謂ナンパというものにあってしまった。
この時代でもあるんだなぁ、それより私が声を掛けられるなんて、とどこか他人事のように思いながらどうしたものかと思案していると、一人の男が私を庇うようにして立った。
ガタイの良い大男の背中を見上げ、私はどう逃げ出すか考える。助けて貰って失礼だとは思うけど、早々に立ち去るべきだと警鐘が鳴り響く。
足音を立てないように一歩下がり、踵を返そうとした所、反対側から軍帽を被った集団が視界に入り、それが第七師団だと気付いて思わず悲鳴を上げそうになった。
折角買った串団子は、絡まれた際に落としてしまい、無惨にも地面に落ちて土まみれになっている。
『うぉぉぉっ』と内心雄叫びを上げ、ショックで泣きそうになっているのを、絡まれた怖さで泣いていると思われてしまったのだった。
泣く泣く串団子を諦めて大男が第七師団の数人を吹っ飛ばしている間に逃げようとしていると、豆菓子売りの老人が声を掛けて来た。
私はさっき絡まれたばかりだからぎくりと身を強張らせたけど、相手が老人であると分かると気を弛めてしまった。ここに百ちゃんがいたら、誰であろうと気を許すなと言われていただろう。人を見た目で判断してはいけないと分かっていた筈なのに、人の良さそうな顔をされてしまえば、ふと身体の力を抜いてしまっていた。
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ここは危ないからと老人の後をついて移動する。案内された建物の中に入ると、他にも人がいて、一斉に受けた視線の居心地の悪さに思わず背後にいる老人に視線を向けて、私は目を見開いた。
そこには、絹のような白い長髪の老人がいたのだ。腰が曲がったよぼよぼの老人の姿はなく、しゃんと背中を真っ直ぐに伸ばしたその人は、強い眼差しを私に向けていた。
半纏のようなものを羽織っていた筈だけれど、それを脱いだのかノーカラーシャツにジレベスト、恐らくスラックスといった様相だ。あまりじろじろ見てはいけないと思いながらも自然と視線を老人へと向けてしまっていた。
「…あの、」
「立ち話も辛いだろう、座って話そうではないか」
「は、はい……」
喉が渇いたように口の中がカラカラだった。声を出すのがやっとの状態の私に、老人はふ、と目を細めて吐息混じりに笑い私をちゃぶ台の前に座るよう促した。不躾な視線を送ったにも関わらず、何事もなかったような態度に思わず感嘆が漏れた。
一人の老人が『また厄介事を持ち込んで…』とぽつりと呆れたように溜息を吐いたのを聞き逃さなかった私は、何故か肩身の狭い思いがした。
私はこの時、まだ目の前の老人が新選組時代に局長・近藤勇の右腕として組織を支え、現代では鬼の副長の通称が有名である土方歳三だとは分からなかった。
後からのっそりと現れた大男が牛山辰馬だと名乗り、『何だお嬢さん、姿が見えなくなったから心配したんだぞ』と怒った様子もなく本当に心配してくれていたようで、申し訳なさに頭を下げた。
『無事ならそれで良い』と言いながら、串団子を手渡され、私は思わず『あっ』と声を漏らした。泣く泣く諦めていたそれをわざわざ購入してくれたらしい。嬉しさの余り、満面の笑みでお礼を言うと、『ほぅ…』と隣から聞こえ、牛山さんには『今晩どうだ?』と誘われてしまって、冗談だろうけれど丁重にお断りすると『そりゃぁ残念だ。気が変わったら言ってくれ』と言われて苦笑するしかなかった。
奇妙な顔触れだなと思っていると、隣の老人が自分が土方歳三であることを名乗った。一人の老人が止めようとしていたけれど、それを目で制した。彼の名前を聞いた時にぴくりと反応してしまい、『私の事を知っているのかな?』と再び強い眼差しで探られ、私はひゅっと喉が鳴った。後に永倉新八だと名乗る彼が土方さんの名を呼んでくれなければ、私は失神していたかもしれない。
土方歳三と言えば、戊辰戦争では旧幕軍側指揮官の一人として各地を転戦し、また所謂「蝦夷島政府」では、軍事治安部門の責任者に任ぜられて指揮を執った。戊辰戦争の最後の戦場になった箱館五稜郭の防衛戦で戦死した筈である。
その彼が、今目の前で生きている。新撰組オタクでなくても、彼の偉大さは知っている。
そこで私は、忘れていた記憶の一部がパズルのピースが埋められたように蘇った。
突然増えた情報に軽い目眩がして、俯き加減になって胸を押さえると、張り詰めていた空気を和らげた土方さんに背中を撫でられた。
「すまない。大丈夫か?我々は今表立って行動出来ない身でな。貴女が間者であると疑う訳では無いが、その可能性も捨てきれなかった」
「……っ、」
思い出したと言っても、全てを思い出した訳では無い。前世でも百ちゃんと行動を共にしていたから、接触している筈ではあるけど、すこんとそこの部分が記憶から抜けているのだ。
アシㇼパちゃん達とは、令和の世界でも百ちゃんを通じて関わりがあったし、前世の記憶も殆どが虫食い状態ではあるけど彼らの事は覚えていた。と言うか関わっていくうちに思い出してきたと言った方が正しい。
それでも、私は百ちゃんに重きを置いているから例え何度転生しようとも百ちゃん以外の事まで記憶に残ることはないのだろう。
この世界の創造主である神がいたとするならば、きっと気紛れに《尾形百之助との記憶はあれど、他はまぁ適当でなる様になれ》といった安易な考えで物事が進められて行くことであろう。
そんなぼんやりとした世界線であるから、私の記憶が曖昧なことにも納得出来るし、納得して欲しい。……と私は誰かに向かって思うのだ。
話が脱線してしまったけど、私は突然与えられた情報の処理が上手く追いつかず、目眩と頭痛に襲われた。
青褪めた私を、土方さんが胸に抱いて落ち着くまで背中を摩ってくれる。百ちゃんとは違った良い匂いが鼻腔を擽る。
何も答えられずにいる私を、土方さんは咎めることも、無理に話させようとはしなかった。