彼は私の世界を溶解させる
番外編
꒰ঌ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈໒꒱
「……ぅ、ん……」
ゆっくりと意識が浮上する。数回瞬きを繰り返し、辺りを見渡す。見慣れない室内に驚き起き上がろうとしたが、腹部に回された腕の存在に気付いてぎくりと身を強張らせた。
恐る恐る視線を腹部へと移動し、相手を起こさないように抜け出そうとするがびくともしない。仕方なく小さく息を吐いて、そうっと身体の向きを変えるとその相手を見て思わず声を上げそうになってしまうのを両手で口を覆って堪える。
抱き締められているのだから近距離に男-尾形がいても不思議では無い。昨夜会っていたのは尾形なのだから、ここで別の男がいたら可笑しいだろう。
ばくばくと心臓が早鐘を打つ。逞しい上半身には何も身に纏っておらず、普段オールバックにしている前髪は下ろされている。
昨夜は散々啼かされ、甲斐甲斐しくお風呂にまで入れてもらい――そこでも致した――今は尾形のスウェットの上着を着せてもらっている。恐らく尾形はその下衣を着ているのだろう。
記憶がぶっ飛んでくれていたら良かったのにと思う。昨夜の事を鮮明に覚えているなまえは、思い出してしまい、思わず赤面した。
「……何だ、思い出してんのか、助平」
「っ!違いますっ」
1人あわあわしているなまえを、いつの間にか起きていた――なまえが身動いだ時に起きていた可能性はある――尾形が『足りんならしてやらんでもないぞ』とくっくっと喉奥で笑いながら揶揄する。その寝起きの声音が少し掠れていてぞくりとした。
慌てて否定するが、なまえの声も掠れていて声が出にくい。
ふっ、と吐息混じりに笑った尾形が親指の腹でなまえの喉元を撫で『掠れてんな』と言った。擽ったさに思わず目を細めてしまう。
『はっ、可愛いな』と小さく呟いた尾形の顔を思わずまじまじ見てしまった。
「おいおい、そんなに見つめてくるなら喰うぞ」
「ぎゃっ!……そ、そんな事より仕事!」
「休みだ」
「えっ、尾形さんは休みでも私は仕事です」
「お前も休みにしといた」
「えぇ……」
喰うぞ、と冗談なのか本気なのか分からない表情で再び腰に腕を回され引き寄せられる。可愛げのない悲鳴を上げると、色気のねぇ声だなぁと鼻で笑われた。
そんな事よりも、時刻を見ればとっくに勤務開始時間が過ぎていて、慌てて尾形の腕の中から抜け出そうとする。だが、尾形からの返答に困惑した。どうやって?と首を傾げていると、尾形がニヒルな笑みを浮かべてスマホを差し出した。それは紛れもなくなまえの物だった。
「んなエロい顔して出勤してみろ、変な野郎に犯されるぞ」
「はい?」
そこに貴方は入らないんですね、とは口が裂けても言えなかった。まぁ一応同意の上なのだから。
エロい顔をしてるかはさて置き、今まで感じたことの無い体験をして、腰も怠くて仕事に集中出来るかどうかも怪しい。
男性経験が豊富という訳では無いなまえはどちらかと言えば性行為に消極的で気持ちの良いものだと思ったこともなかった為に、尾形とは溶けてしまうのではないかと思った程気持ち良かったのだ。
「……なんか、意外です」
「あ?何が」
「いや…尾形さんって面倒臭いこと嫌いって感じがするので」
「まぁ、間違ってはねぇな」
怒られるだろうか、と思いつつそう言えば、尾形はぱちぱちと瞬きした後首肯した。
オブラートに包んで言ったが、尾形にはちゃんと伝わったようで。ははぁ、と気を悪くするでもなく笑った。
今も、先程も。尾形のイメージとはかけ離れていて驚いた。
昨夜着ていた服を洗濯してくれていたらしい。綺麗に畳まれた衣類と下着を手渡され、顔と歯を磨いてこいと洗面所へと押し込まれたのだ。なまえが着替えている間に朝食まで作ってくれていて、今はダイニングテーブルに向かい合って座り有難く頂いている。尾形は朝は食べないらしく珈琲だけだ。なまえはミルクたっぷりのカフェオレにしてもらったのだが、『お子ちゃまか』と笑われてしまった。失礼な、と頬を膨らませるとそれが子供なんだよ、とまた笑われた。
最初こそ怖いイメージがあったのに、まだ出会ってそれ程経っていないのにうっそりと笑う尾形を見れば悪い気がしなくて。好かれているのではないかと錯覚してしまう。きっと誰にでも優しいのだろう、そう思うとちくりと胸が痛んだ気がした。
《後書きという名の言い訳》
*☼*―――――*☼*―――――
どこかで使おうかなぁと思って書いてたものの1部です。尾形さんは料理出来て、それも夢主を囲う為だといいんじゃないかなぁ…なんて思いながら書きました。
「こんなことするのはお前だけだ」とか何とか言わせたかったですね|q •ㅿ•̀ )